オーストラリア (2016)

フリンダース大学マウントダットンベイ発掘調査
(Flinders University Mt. Dutton Bay Field School and Research Project) 

プロジェクトディレクター:ウェンディー・ヴァン・ドゥヴェンヴォーデ博士 (Dr. Wendy van Duivenvoorde, Flinders University)

場所:オーストラリア、マウントダットンベイ

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発掘調査兼課外授業のメンバー

 

このプロジェクトはオーストラリアのフリンダース大学の修士課程の学生のための課外授業の一環として実施されました。2016年1月当時博士課程の最終年度の在籍していた私は、テキサス農工大学出身でフリンダース大学の教授をしているドゥヴェンヴォーデ博士(ウェンディー)から依頼があり、特別講師としてこの課外授業に参加しました。

修士課程の大学院生に発掘の仕方と遺跡の記録作業のやり方を教えるこの授業は、フリンダース大学主体で行う水中発掘調査としての側面を持っており、マウントダットンベイにある歴史的な建物ならびにこの地域の20世紀初頭の伝統的漁船の水中遺跡調査も重要な目的でもありました。

このことは私が2010年に参加したサイパンでの課外授業と共通する点です。実際の発掘調査に学生を連れていき、現地で技術を一から教えながら、同時に遺跡や歴史的建造物の調査のためのデータを収集するというものです。

 

この課外授業を兼ねた発掘調査には、オーストラリアの政府や調査機関で働いている水中考古学者や、既に発掘作業の経験がある博士課程の大学院生が教師として参加するのが通例となっています。

友人であり先輩であるウェンディーからの依頼であったのと、2010年に生徒として参加したフリンダース大学の課外授業に、今度は教師として呼ばれたという嬉しさもあり(あと当時、遠距離で付き合っていた日本人のガールフレンドがオーストラリアに留学していたため、仕事という理由で、無料でオーストラリアまで行けたのも大きな理由でした)、テキサス農工大学の春学期中に、3週間、アメリカを抜け出してオーストラリアに行ってきました。

 

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アデレードからマウントダットンベイまでは約8時間。オーストラリアの荒野をひたすら進む。尋常じゃないハエの数!

 

発掘場所であるマウントダットンベイはフリンダース大学のあるオーストラリア南部の都市アデレードから車で8時間ほどの所にあります。

調査期間は約2週間で、その間、生徒はボロボロのホステルのような建物で自炊をしながら考古学を学び、私たち教師は離れた豪華な?コテージで大自然を満喫していました。

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教師たちの夕食。メンバーは主にオーストラリアの政府や企業ではたらく考古学者と、フリンダース大学の博士課程の生徒達。私の右隣にいるのがフリンダース大学で教授をしているドゥヴェンヴォーデ博士(ウェンディー)。

 

学生の住んでいた建物では、失恋して落ち込んで勉強どころじゃない男の子や、女の子同士の争い、淡い恋模様などいろいろな人間ドラマがあったようですが、それで大変な思いをしたのは責任者であるウェンディーだけで、教師陣は毎晩ワインを飲みながら若い学生たちの日々の成長を楽しんでいました。

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夕方に授業(in生徒達のコテージ)。右がキッチンで、奥の扉の一部屋に3~4人。

 

実はこの手の人間関係のいざこざは考古学の発掘ではよくあるのです。経験豊富なプロだけのプロジェクトではほとんどありませんが、大学が主体となって学生が参加するプロジェクトではまず問題が起きます。

まず前提にあるのが、ほとんどの場合、発掘調査期間は限られた狭い空間で何人もと生活を共にします。プライバシーは全くありません。その上できつい肉体労働を毎日行うのです。2~4日は誰もがこの珍しい発掘調査という環境を楽しめるのですが、5日目ごろから徐々にストレスがたまり、約1週間ほどでいたるところで問題や争いが起こりはじめます。

若い学生たちにとっては、精神的にも、約2週間が発掘調査に参加できる期間の限界になります。この経験を経て、約半分の学生がまた発掘調査に戻ってきます。そして約半分が考古学者になるのを諦めるか、発掘調査の必要ない歴史学者に方向転換します。

私が見てきたなかでも、テストの成績の良い学生の多くが初めての発掘調査において挫折を味わっていました。いかに教室やテストで優秀な学生でも、発掘調査の生活環境に耐えられるかどうかは一度実際に経験しないとわかりません。こればかりはある意味「才能」で、ストレスに耐えることが出来るか否かではなく、ストレスを感じてしまう性格か否かなのです。

考古学者やそれを目指す学生の中には、このような生活環境をまったく苦にしない性格の持ち主が2割ほど存在します。発掘調査期間の共同生活と肉体労働を「バケーション兼エクササイズ」と感じてしまう、ある意味「おめでたい性格」の持ち主です。この類の考古学者は、3カ月以上の長期の発掘調査で、しかもどのような過酷な環境下におかれても、毎日を楽しむだけで全くストレスを感じません。

ただし考古学は膨大な量の文献と他の研究のケーススタディからの得られる沢山の知識が必要となる「学問」です。下地となる知識とそれに基づいた応用力がないと、発掘現場で役に立つ仕事が出来ません。

いくら発掘調査を楽しめても、それでは誰もお金を払ってまで雇ってくれないので、所謂「ボランティア」考古学者や「ボランティア」ダイバーにとどまってしまいます。海外では水中考古学はある程度認知されている学問で人気もあるので、ボランティアとして働いでくれるダイバーや経験を積みたい学生が沢山います。

水中考古学者として自立できるようになるためには「教室での知識」と「現場での作業力」の両方が必要になるのです。

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教えるだけではなく、フォトグラメトリーの水中記録作業も依頼されました。隣はフリンダース大学で教授をしているジョナサン・ベンジャミン博士。

 

基本的な知識と能力があるのは大前提で、水中考古学のプロとして大学や政府の研究機関で働いている学者のほとんどが上記のような「おめでたい性格」の持ち主です。
このような性格の持ち主だからこそプロとして働けるまで生き残っているのでしょう。

基本的にポジティブで細かいことは気にしない、でもやるべきことは確実にやれる人が生き残っています。なので自立した考古学者だけのプロジェクトでは喧嘩や争いなど起こるわけなく、みんな楽しく働いています。

 

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水中での記録作業を学んでいる学生達
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調査の後半。体力の限界!

 

結局、学生の間でいろいろな人間関係の問題はあったようですが、課外授業としては大成功でした。私も5人の学生を受け持ち、彼らにフォトグラメトリーを教えました。

あれから何年かたった今でも、この時に教えた学生たちからは連絡が来ます。何人かはその後無事に修士課程を修了して、政府や考古学関係の企業で水中考古学者として働き始めたようです。

また、この時に一緒に教えていた教師たちとは、今では共に発掘調査を行うまでの仲の良い同僚であり友人になっています。

 

このフリンダース大学の発掘調査を学べる課外授業は、私が2010年に参加したように、フリンダース大学の学生以外も参加できるようになっています。水中考古学に興味がおありでしたら参加してみてください。

 

 

次の発掘プロジェクト

ボカチカ沈没船遺跡プロジェクト(コロンビア:2016年)

 

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