2月1日。作業がはかどり、予定よりも4日もはやくメキシコを発つことになりました。
今回の潜水調査では1920年に沈んだアメリカ海軍の潜水艦と20世紀前半に沈んだアメリカの蒸気船2つをフォトグラメトリーをつかって3D実測図(3Dモデル)を作成しました。
メキシコ国内の水中考古学でフォトグラメトリーを使うのは初めてのことらしく、その成果をとても喜んでくれました。メキシコ滞在の中頃からロバートから次はいつメキシコに来てくれるのか聞かれていました。私としてはとても楽しい時間を過ごしていたので、「時間が空いたらいつでも帰ってくるよ。」といったら、真顔で「じゃあ再来週また来てくれる?」と聞かれました。
ん、、、?再来週?
それはちょっと、、、
私は現在一時的にアメリカに滞在しています。1月の初めにアメリカで学会があり、1月末から2月の初めまでメキシコで仕事が入っていて、その次の仕事は3月のフィリピンのものだったので、年末から2月の末までアメリカの母校で恩師のカストロ教授と共同研究を行なっています。もともと12月~2月は海事考古学ではシーズンオフなので、あまり現地調査はおこなわれません。逆に3月から11月(特に6月~8月)は水中発掘調査の時期なので私への依頼も多く、休みがあまりとれません。プロとしてそれは有難いことなのですが、やはり正統派の学者としての純度を保つには、1年のうちに何か月かは図書館にこもって文献を読みあさり、研究室で同僚の学者と研究をしなければなりません。そのため私は博士課程の修了後も時間を見つけては母校に帰り研究を行っています。いわばこの期間は自費でアメリカに渡り研究をしています。なので3月に海事考古学の水中調査のシーズンが始まる前になるべく研究と勉強をしておきたいのです。
もちろんこのように私の能力を認めてもらい、現地にいる間に次の仕事の依頼をいただくのはとてもありがたいことなのですが、母校での研究も大事なのでさすがに2週間後にメキシコにとんぼ返りは丁重にお断りしました。次は5月の半ばに少し時間が出来るかもしれないのと、おそらく8月にまたアメリカでの水中調査を行う予定なのでそれにあわせて依頼をいただくことになりました。有り難い話です。
また5月に(または8月)に帰ってくる約束をして、楽しかったメキシコを後にしました。
メキシコ編の最後に今回のチームメンバーの紹介をします。
(中央)プロジェクトディレクターのロバート・フンコ(Dr. Roberto Junco)。メキシコ政府の考古学者(日本でいう文化庁直属の国の研究機関。メキシコ国内の遺跡の調査と管理を行う機関で働いている)。メキシコ考古学の水中考古学部門の最高責任者という実はとても偉い考古学者。
彼とは最初に2014年ごろ私が大学院生時代に、ロバートがテキサス農工大学の私の恩師のカストロ教授のところに招待研究者として訪ねてきたときにあいました。その時はあいさつ程度だったのですが、その後、2017年にウルグアイでの水中調査の時に彼と私がウルグアイ海軍から発掘メンバーとして招かれました。その時に意気投合して仲良くなり、メキシコでもフォトグラメトリーを使って調査をしたいとのことで依頼を受けました。普段はおちゃめだけどものすごく仕事に対して真面目な人です。でも女性にすごく弱いのです。
(左端)サルバドール・エストラーダ(Salvador Estrada)。ロバートの同僚でメキシコ政府の考古学者。チームの良きお兄さん的存在。働き者でとても優しい人柄。メキシコの文化についていろいろなことを教えてくれました。大の親日家でもあり、常に私をきにかけてくれて、いろいろと助けてもらいました。
(右から2番目)フラン・デイビッド(Francisco Davids)。プロのダイバー。アルゼンチン出身で15年ほど前にロバートに誘われてメキシコに移住してきました。普段はダイビングショップをユカタン半島で経営しているみたいですが、ロバートの相棒としてメキシコ国内で考古学の水中調査が行われるときは彼の調査のいつも手助けしているみたいです。とても冒険好きで愛妻家。チームのムードメーカーです。
(右端)アルフレッド・フェルナンデス(Alfredo Fernandez)。地元ラパス出身のプロの写真家。水中写真だけでなくスポーツから景色まで様々な写真を専門にとっています。普段はナショナルジオグラフィックやレッドブルの専属カメラマンとしてメキシコで活躍。実は地元の歴史にも精通している歴史家でもあり、今回も調査した潜水艦の第一発見者でもあります。ロバートと仲が良く。今回はカメラマンとして同行。恐ろしく高価な機材を自在に操る姿とその技術と姿はナショナルジオグラフィックやレッドブルの第一線で活躍する凄みを感じました。でも普段はとても優しいおじさんです。
今回の水中現地調査はこの素晴らしいメンバーと楽しい時間をすごし、とても充実したものになりました。それにクジラの鳴き声をきき、アシカと遊びながらの水中調査は簡単にできるものではありません。メキシコは何回も帰ってきてもっといろいろなことを知りたい国になりました。また数か月後に必ず帰ってきます。