ギリシャの保存処理とアンギロス

今回はギリシャのフォーニ島水中調査プロジェクトの保存処理班について紹介したいと思います。

ギリシャでのプロジェクトでは上の写真で見れる様な基地が常設されています。これは保存処理のための施設で、分析のために引き上げられたアンフォラ(古代の輸送用の壺)などの遺物のクリーニングと保存処理を行います。

実は世界中で行われている水中考古学の現地調査を見ても、この様に保存処理の専門家が簡易保存処理の施設を現地に設置して、保存処理の作業を現場から開始するのは珍しいのです。大体の場合は考古学者が引き上げた遺物を水中に保管して、現地調査に終了後に保存処理の施設に送り、そこから保存処理の作業が始まります。保存処理は水中考古学では必須で、これを怠ってしまうと歴史の謎を紐解くための重要な情報がせっかく引き上げた遺物から失われてしまいます。

こちらがフォーニ島水中調査プロジェクトの保存処理を取り仕切るギリシャ政府の保存処理の第一人者アンギロス。このプロジェクトでは毎年彼が彼の弟子たちを引き連れつつ全員で5人の専門家による保存処理班が構成されています。

彼がわざわざ保存処理の簡易施設を現地に設置してまで行うにはいくつかの理由があります。その中でも特に重要な理由が以下になります。

水中から引き上げられた遺物にはコンクリート化した堆積物や海綿などの海洋生物がこびりついています。これが海中から引き上げてから数日でも経過してしまうと、今までの海中での環境からの変化で硬化が始まってしまい、取り除くのが難しくなってしまいます。つまり引き上げ後にすぐに保存処理の作業に取りかからないと、硬化した不純物の除去作業により遺物の表面にダメージを与えてしまう可能性が高くなってしまいます。表面の模様やアンフォラの所有者のサインなど貴重な情報を守るためには引き上げたその日のうちから保存処理を行うのが最適にため、それを現地で行うために様々な道具や貯蔵水槽をわざわざ運んできているのです。

もう一つの理由が、引き上げられたアンフォラや遺物の表面にこびり付いた海洋生物の状態をその瞬間に正確に記録するためとのことです。アンフォラに付着する海面などの海洋生物は、沈没船の水深やその海洋の環境、またはアンフォラやその他の土器の構成物質の種類などにより種類や育ち方に一定の法則が見られ、これを正確に記録して国内の保存処理の技術者間で共有することにより、今後の保存処理のより正確な方法論の構築や沈没船の保存環境状況の理解を深めるための情報にするためとのことです。当然のことながら海洋生物は海中から引き上げられた瞬間に劣化してしまうために、引き上げ直後に保存処理の技術者や水中考古学者により引き上げられたそのままの状況を正確に記録しなければなりません。そのために保存処理の専門家が施設を現地に設置しているのです。

私は保存処理の技術面はからっきしダメなのですが、できる限りの理論をプロジェクト中に彼から学びました。ギリシャのアンフォラ(土器)の水中遺跡の保存処理、流石に進んでいます。

ちなみにギリシャでのプロジェクトでは日がくれた後によく食事とお酒が振舞われるのですが、その仕掛け人がアンギロス。

料理の腕が何故か超一流!1時間程で30人前の酒の肴を用意します。

勉強と美味しい思いをたらふくさせてもらいました。

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