皆様、あけましておめでとうございます。
2021年です!今年はどんな年になるのでしょうか?
2022年はコロナなどを気にせず、もっと華やかな気持ちで新年を迎えられたらと願っています。

2020年は本当に奇妙な年でした。通常は9-10カ月は海外で仕事をしているので、まさかこんなに日本で過ごせるようになるとは思いませんでした。(これは嬉しい誤算でした。)
思いもよらぬコロナ禍でしたが、オンライン講演やワークショップを通じて、なるべく多くの方に、まずは水中考古学の面白さを伝えれるように頑張った一年でした。

一年前に掲げた、2020年の目標は「人材」の発掘育成でした。水中考古学を担う若い世代と新たな人材を見つけることでした。一年経ったいま、これは70%ぐらいで達成できたと思います。
若手の育成というところでは、なんやかんや仕事が忙しく、さらにクロアチアで予定していたフィールドスクールも中止となり、そこまで力を入れることが出来ませんでした。しかし幸運なことに、様々な他分野から「水中考古学」に興味を持ち、手伝いをして下さる研究者や専門職の方々と沢山出会うことが出来、更に将来に向けた研究や企画をいくつも立ち上げることも出来ました。本当に出会いに恵まれた一年でした。
そう考えると、海外での発掘研究の仕事が無くなってしまった2020年は、とても実りのあった年だったともいえます。こんなに「仕事としての発掘研究」以外での「学術機関以外での一般講演」や「純粋にやりたい研究」に時間をさけた年はこれまでありませんでした。
2020年以前は海外からの仕事の依頼も、よほどのことがない限り断ることも出来ませんでした。しかしながら2020年はコロナの影響もあり、悪い言い方をすると、気兼ねなく海外からの依頼を断り日本滞在が出来た年でもあったのです。(今までは一つの国からの依頼を断り、他の国からの依頼を受けていると、好き嫌いで選んでいるのではと誤解されたりしちゃってました。好き嫌いで選んじゃってるんですけどね。)
現状では2021年の6月頃からまた海外での仕事を予定しているのですが、おそらくワクチンが日本国内にいきわたるのにはもう少し時間がかかるかもしれません。そうなると海外での仕事再開も2021年後半まで延期しざるを得ません。2020年も世界中で新たな沈没船が見つかり、私のところに来る共同研究の依頼の数が多くなってきています。恐らく、少なくとも今後の10年でこれほどまとまった期間日本に滞在できることはもう無いでしょう。そういった意味では2021年は日本(一カ所)に長期間留まれる最後の年になります。

そのことを踏まえて、今年の目標は「再勉強」です。これは新たな研究をバンバン立ち上げるというのではなく、一度留まり、研究者としてしっかりと知識を蓄えなおすという宣言です。そして自分自身の「興味」を広げ成長させます。
私の船舶考古学の知識の基礎は大学院時代の修士と博士の7年間で、寝る間を惜しんで我武者羅に蓄えたものでした。その知識のおかげで世界中の多くの沈没船遺跡で働かせてもらい、そのなかで「文献での知識」と「現場での研究」を組み合わせて、新たな発見を見つけてこれました。
私にとってはこの「文献での知識」と「現場での研究」は両方が同じぐらい重要なパーツで、片方が「エンジン」だとしたら、もう片方は「燃料」です。両方が組み合わさることによって進むことが出来ます。

2020年は例年よりも時間があったり、講義やオンライン講演の準備の為に、昔に読んだことのある文献を改めて読んだり、最新の学術論文を読む機会がありました。
その中で感じたのは2016年に大学院を卒業してからの4年間で、60カ所の遺跡での水中調査と研究という経験を経て、自分自身の研究者としての視点が、これまで(4年前)とは大きく変わっているということでした。
2016年までは文献資料での知識をひたすら貯めて、2016年~2019年はそれを使いながら沈没船の調査をしてきました。その中で確実に「研究者としての新たな視点」を得ることが出来ました。
そのおかげで、これまでに一度読んだことのある文献を読んだときに、今までと全く違う解釈を出来るようになったのだと思います。(これは楽しかった。)
そしてこれからの将来を考えたとき、恐らく研究者として今一番しなくてはならないのは、改めて「文献で得られる知識」を充填すること。つまり「再勉強」です。
数多くの沈没船の現場で働くことによって変化することのできたこの「視点」というフィルターを通し、改めて知識を加えることによって、半年後か2022年から再開する海外での発掘研究をするにあたって、さらに進化した「視点」を生みだしていくことが出来るはずです。そのための時間や機会があるのが2021年のはずです。

もちろん2021年を通しても、2020年に多くの方に協力していただいて既に始まった研究や企画などは、継続して全力で取り組んでいきますし、人材の発掘育成も続けていきます。
しかしながら2021年は何よりも自分が研究者として今後成長していけるための「燃料補給」に力を得たいと考えています。
少し話がずれますが、2016年から2020年に多くの現場で働かせてもらい感じたのは自分自身の知識不足。恥ずかしながら2016年頃はちょっと船舶考古学について自分自身がいろいろ理解していると勘違いしていました。経験を積みながら、新たな知識を蓄えていく中で感じたのは、「圧倒的に自分は船舶考古学について知らない」という事実だけです。そのため、知りたいことややりたい研究がひたすら増えていっています。
また、2016年~2019年の経験でわかってきたものは、「ダメ(なりたく無い)な研究者の特徴」と「尊敬できる研究者の性格」でした。一言でわかりやすく言うと、これは「興味の有無」です。
多くの研究者が「エゴ」「自尊心」「名声」「お金」を得るための手段として、研究者という生き方を選択しています。ただ「エゴ」や「自尊心」はそれを達成した時、それを達成すべき相手がいなくなった時に消えてしまいます。そして「名声」や「財力」もそれを得たときに徐々に薄れていきます。
ただ研究者の中にはこれらを目的にする人が本当に多いことに驚きました。ただし各自の人生はそれぞれなので、私は文句を言うつもりはありません。全く悪いことだとも思っていません。
反対に、数いる研究者達の中で、私が「あ、この人は素敵だ!この人みたいになりたい!この人と一緒に研究をしたい」と思える研究者には共通の特徴があります。それが自分の研究に飽くなき「興味」を持っていることです。興味というと難しいかもしれませんが、英語でいう「キュリオシティ(curiosity)」です。つまり興味(知りたいこと)があるから研究しているという研究者です。この「興味」というのは面白い性質の感情で、知ろうとすれば知ろうとするほど広がっていくもので、知ってしまったらさらに深いところまで知りたくなるものです。ある意味終わりのないものです。ただしこれは自己完結できるもので「他人と比べなくても良い」というすこぶる健康的なもので、「興味の大きさ」と「知るという行動で得る楽しさ」は比例します。
つまり先に述べた「エゴ」や「自尊心」、「名声」や「財力」、または「復讐心」などと違い、いつまでも消えたり弱まることのないもので、「興味」とは研究者にとっては最強のモチベーションだと私は思います。

個人的な話になりますが、この「興味」について気付き始めたのはごく最近です。(以前は当たり前すぎて見えていなかっただけかもしれません)。
4年前に大学院を卒業するにあたって、研究員として大学などの研究機関に残るという選択肢も考えていました。ただ気がかりだったのが、私からしたら一番幸せでなければならないはずの「大学教授」という職業の人達の中で「幸せそう」に毎日を送っている人たちが少ないことでした。「私よりも賢く、若い頃は何よりも研究に意欲を燃やしていたはずの彼らが大学という研究機関に長年いる中で、どうしてこんなにも変わってしまったのだろう?」と疑問に思いつつも、その「変化の根本的な原因」がわかりませんでした。その為、その理由がわかるまでは大学などの研究機関に属することを避けて、自由な立場で多くの研究に携わろうと考えたのが、今の世界中の発掘現場を渡り歩く生活を始めた大きな理由でした。
そしてこの4年間に、多くの研究者と研究に関わる中でぼんやりと見え始めたのが「興味」という存在です。自分の研究に「興味」を持っている人は「楽しそう」に研究をしており、毎日が幸せそうです。そして研究すれば研究するほどに彼らの「興味」は深くなり、良い意味で泥沼にハマって、楽しそうに足掻いています。
「エゴ」や「自尊心」、「名声」や「お金」が目的になっている人は自分よりも他人を気にして、研究に対する「興味」を失っています。その場合は研究が「エゴ」や「自尊心」を得るための手段に成り下がっており、「名声」や「お金」が最終目標になり、やがて研究すらしなくなります。他人の研究を奪ったり寄生したりする研究者が生まれるのはこうした理由です。
こうなってしまったらもはや「研究者」とは言えません。私の中で研究者とは「研究をする人」です。もし自分が船舶考古学に興味が無くなって、楽しくなくなったら、迷わずキッパリと別の仕事を探します。
私は自分ではこの先も全然大丈夫だとは確信しているのですが、意識してこの様にならないようにするには「興味」を育て続けないといけません。その為には「興味という欲望のままに勉強と研究」をすることです。ただ仕事が忙しかったりすると思うように「興味」と向き合えないこともあります。なので私にとって2021年は、この「興味」を増やし・育てるために最適な一年だと思うのです。
なので多少時間を使っても、読みたい文献を読んで、知識の地図を広げ、2022年からやりたい研究を増やしておきます。
あえて比べるとしたら、競争相手は自分自身。昨年の自分と比べ、より研究に没頭できてるように頑張ります。研究者としての評価は求めてませんが、これはもう自分でどうこう言うよりも、一緒に働いてくれている周りの方々に任せます。

そう考えると、私の中でもっとも尊敬できる日本人研究者はあの人なんだよなぁ、、、、、、
「さかなクン最強説!」