
ついに今回、私の大好物であるクロアチアの絶品パプリカソース「アイバー」を紹介します。
このパプリカをもとに作る「アイバー」はスペルがAjvarのため、他の日本語のウェブページ等では「アイヴァル」や「アイバル」ともいわれますが、発音は「アイバー」なので、ここでも「アイバー」と統一して読んでいきたいと思います。この野菜のソースはクロアチアだけではなくマケドニアやセスビアなど他のバルカン諸国でも広く食べられている料理なんだそうです。ただ地域によって微妙に作り方や具材が違ってくるとのこと。今回紹介するのはもちろんクロアチア版のアイバーです。
私が初めてアイバーと出会ったのは2012年のクロアチアでの最初のプロジェクトでした。見慣れぬ赤色のソースを肉料理に付けて食べたのですが、その美味しさに衝撃を受けたのを今でも覚えています。とにかく野菜の旨味と甘みの凝縮された極上のソース。「赤き魔法のソース」です。2012年からクロアチアで働いている間はなんにでもアイバーをかけて食べてきました。

そして2019年の秋、ついにこのアイバーの作り方を教わることが出来ました。教えてくださったのは、私がクロアチア働いているときの依頼主であるザダー大学のイレーナ・ロッシ教授の息子さんの彼女さん(写真中央)のお母さん(写真左)。赤の他人のように聞こえますが、私も長年クロアチアで働いているので、ロッシ教授の息子さんとその彼女さんとも仲の良い友達です。つまり友人のお母さんがクロアチアの家庭料理を教えてくれたということです。実はこのお母さん、町でも有名なアイバーづくりの名人。前々からアイバー愛で愛が溢れていた私を、今年のアイバーづくりに招待してくれました。そしてクロアチアでの同僚で、チェコ出身の言語学者の友人マテも是非参加したいと一緒に来てくれました。
用意したパプリカは10キロ!アイバーは保存もできるソースとしても食べられています。なのでクロアチアの家庭では一年に一回、秋(9月末のぐらい)に大鍋で大量にアイバーを作り、それを一年かけて食べます。パプリカ10キロから作れるアイバーは大きな瓶で10個ほど。1個の大瓶では家族全員(5人~6人)で2~3週間ほど食べることが出来ます。個人で食す場合はこのページで紹介する分量の10分の1程で試してください。

まずはパプリカの外側を綺麗に洗い、開くように切り、ヘタと中の種を綺麗に取り除いていきます。もしパプリカの外側に傷があって黒や白く変色していたら、その部分も綺麗に取り除いていきます。

パプリカと共にアイバーソースに入るのがナス。今回はナスも3キロほど用意されていました。ナスも綺麗にヘタと皮をむいて、さらに火が通りやすいように4等分して下準備します。

次に大鍋に水5リットル、お酢(アルコールビネガー)1リットル、塩500グラムを入れて沸騰させ、パプリカとナスを別々に、しっかり火が通るまで茹でます。

ナスはパプリカよりも少し時間がかかりますが、しっかりと茹でて火を通します。こちらがロッシ教授の息子さんの彼女さんのバレリアさん。

茹で終わったら、パプリカとナスを器械でミンチにしていきます。大量のパプリカとナスをひたすらミンチです。


鍋に入れるパプリカがこげないように、最初に鍋にヒマワリ油をしいてからミンチしたパプリカとナスを入れ、そこからひたすら強めの中火~弱めの強火で煮ていきます。水は入れません。
強めの火でひたすら煮詰めるので常に誰かが鍋底をこするようにかき混ぜていないといけません。少しでも怠ると一瞬で焦げてしまいます。ちなみにこちらがロッシ教授の息子さんのニコラ。

鍋の側面のパプリカが焦げないようにたまにヒマワリ油を回しかけながらひたすら煮ていきます。煮詰めている最中に使用したヒマワリ油は約2リットルにもなります。アイバーは野菜ソースですが、そこまでヘルシーというわけではなさそうです。
この煮詰める作業に必要な時間はなんと最低2時間。今回は2時間半も煮詰めていきました。2時間煮詰めるとアイバーも徐々にとろみが強くなり、体積も半分以下になり、旨味が凝縮され、色が綺麗な赤から乳白色のかかったオレンジ色になりました。

2時間半たったらもうすぐ完成です。火を止める直前にマスタードを小瓶一つ(140グラム)、ニンニク一房(4~5片)、コンソメを4キューブ(クロアチアのコンソメスープの素のキューブは日本の4倍ぐらいの大きさがあるので、日本の小さいキューブだと16個ぐらいは必要かもしれません。)を入れて味を調えます。
前にも言いましたが、これは大きな瓶10個分の分量です。多めに作って誰かと分けるとしても10分の1の量でも充分すぎるほどです。一人暮らしの方は20分の1から、30分の1の分量でお試しください。


そして自然(オーガニック)の保存料の粉もこの分量で2袋入れました。そしてよくかき混ぜ、火を止めます。

鍋を火からおろしたら、洗っておいた瓶にアイバーを入れていきます。

仕上げに、瓶ごとアイバーをオーブンに入れ、2.5時間ほど弱火で焼きます。その後はオーブンに入れたまま一日寝かせ、その後瓶に蓋をして更に数日室温でさらに自然に冷ましていきます。そしてようやく完成。

朝にパプリカとナスを洗うところから、瓶に煮詰めたアイバーを詰めてオーブンに入れるだけで6時間もかかりました。まさに事前に聞いていた通り丸1日かかる作業。クロアチアでこのアイバーづくりは毎年、秋の一週末を使った一家総出のイベントなんだそうです。
手伝いに来てくれていた考古学犬見習のマーラも待ちくたびれた様子でした。


その後は、みんなでお酒を飲みながら庭でバーベキューを楽しみました。

そこには去年作ったアイバーもありました。やはり美味!しかも手作りアイバーはスーパーマーケットで買う市販のアイバーとは比べ物にならないほど甘みが違います。
アイバーは基本的には肉料理に付け合わせるソースなのですが、サンドウィッチにつけたり、ポテトに合わせたりもできる万能ソースです。
今回アイバーの作り方を一から教わり、私にとって長年謎だったアイバーソースの謎を解くことが出来ました。
アイバーはとにかく「野菜の甘みと旨味が濃い」のです。なぜこんなにこのソースがおいしいのかわかりませんでした。実際に作ってみると、アイバーの調理工程は、「単純かつ丁寧にひたすらパプリカとナスの甘みを引き出し、濃縮していく作業」。それに「茹でる・煮る・焼く」の3つの作業を使い、この旨味の凝縮を行っていきます。
これはうまいはずです。
作るのは少し手間と時間がかかりますが、私が今まで食べてきた中で最高度の旨味と甘みをほこる極上のパプリカソース「アイバー」。是非お試しください!
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