アメリカ (2015, 2016)

シェルボーン蒸気船の墓場遺跡発掘プロジェクト

(Shelburne Shipyard Steamboats Graveyard Project)

プロジェクトディレクター:ケビン・クリスマン博士 (Dr. Kevin Crisman, Texas A&M University)、キャロリン・ケネディー  (Carolyn Kennedy, Texas A&M University)

場所:アメリカ合衆国、バーモント州、シェルボーン

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2015年の発掘調査チーム
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2016年の発掘調査チーム

2015年と2016年の夏はアメリカのバーモント州にあるシャンプレイン湖で19世紀前半の「蒸気船の墓場」の発掘調査を行いました。この発掘はテキサス農工大学によって行なわれ、船舶考古学プログラムの「新世界研究室(New World Laboratory)」のケビン・クリスマン博士とその助手のキャロリン・ケネディーがプロジェクトディレクターとなって実施されました。

「新世界研究室」はアメリカ国内で発掘された沈没船を主な研究対象としており、ケビン・クリスマン博士はその第一人者です。(1490年にコロンブスによってアメリカ大陸が発見されると、アメリカ大陸はヨーロッパ諸国からNew World(新世界)と呼ばれるようになったのが彼の研究室の名前の由来になっています。)

2015年当時、私はまだ博士課程の途中で別の研究室で働いていましたが、普段からご指導いただいているクリスマン博士(4人いる私の担当教授の一人でもありました。)と親友のキャロリンからの依頼で、特別にこのプロジェクトに参加することを決めました。

研究室同士の仲が悪いわけではないのですが、船舶考古学プログラムは各教授が研究室を持っていて、そこで2年以上給料をもらいながら働く大学院生(いわゆる教授の助手)は各研究室に1人か2人しかいません。その大学院生が忙しい夏の期間に他の研究室を手伝うのは非常に稀なことなのです。

しかしながら、この所謂「助手」である大学院生達は、授業時以外も常に大学の研究室にいる(ほぼ研究室で生活している)ため、研究室は違っていても一緒に食事したり飲みにいったりして兄弟のように仲良くなる傾向がありました。(もちろん他の大学院生達とも仲は良いのですが、過ごしてる時間は格段に長くなります)

特にキャロリンの働いている「新世界研究室」と私の働いていた「沈没船再現構築研究室」は廊下を挟んだ対面にあったので、キャロリンは今でも親友の一人です。

この発掘で調査する船の1つがキャロリンの博士論文の研究対象だったので、私自身も多忙だったのですが、主任担当教授であり助手として働いていたカストロ博士から約1ヶ月の時間をもらい発掘調査に加わりました。(その翌月、さらにわがままをいってトリニダード・トバゴでの発掘に参加することにしたので、ここ数年、恒例になっていたクロアチアでの水中発掘調査への参加を断念しました。)

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シェルボーンの水中発掘現場
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私が作成した4つの蒸気船遺跡の高画質モザイク写真

バーモント州シャンプレイン湖の東側に位置する町「シェルボーン」には19世紀前半に蒸気船の造船所がありました。その造船所では古くなって廃棄された蒸気船を意図的に沈め、造船所の足場として使っていました。その結果、約150mx50mという狭い範囲に4つの蒸気船が沈んでいる「蒸気船の墓場」が出来たのです。

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2015年に私が作成した蒸気船フェニックスIIの3D実測図(3Dモデル)

19世紀前半はアメリカで蒸気船の構造が爆発的に発展した時期でした。広大なアメリカの大地では人や物資の運搬に莫大な費用と労力がかかります。しかしながら、海よりも幅の狭い川では風の力で動く帆船は使えません。船が川上にも行くのに適したように吹いてくれるとは限らないからです。そのためにアメリカ国内に張り巡らされた川を自由に走行できる、風の力に頼らない蒸気船が急速に発達したのです。19世紀前半はまさに発展期の途中で、蒸気船の造船年が10年異なると、船の構造も全く別物となるほどでした。

このシェルボーン造船所跡には、製造年が微妙に異なる蒸気船が4隻も沈んでいます。これらの沈没船遺跡を調べれば、アメリカの蒸気船の構造がどのように進化してきたかが判るという、非常に興味深い遺跡でした。

2年間続いた発掘調査はキャロリンの他にも仲のいいテキサス農工大学の友人が何人も参加していて、修学旅行のようにとても楽しいものでした。

アメリカ 水中考古学 6 水中考古学者
休日はみんなで野球観戦や映画館に行って過ごしました。 真ん中がプロジェクトディレクターのひとり、キャロリン。

水中発掘自体は、水深が2~4m程ととても浅く安全なものでしたが、透明度が1m~2m程と低く、水も冷たかったため苦労しました。

2015年は学部生向けの夏の特別クラスとして実施されたため多くの大学生達も参加していました。また、2016年は多くの修士課程の大学院生たちが参加し、クリスマン博士とキャロリンが水中発掘の仕方を教えている傍ら、一人で黙々とフォトグラメトリーをつかった3D測量図(3Dモデル)の作成を行っていました。

それでも、毎日朝から晩までリラックスしながら働いてとても楽しいものでした。

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水中の様子。透明度が低く、水が冷たかったです。
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朝の8時から午後3時頃まで水中で作業して、その後、夕食までにその日のうちに集めたデータを書き写しまとめます。
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夕食前のミーティングの様子。 町から少し離れた森の中の大きなコテージで、1ヶ月間共同生活していました。

そして最後にここまで読んでくださった皆さんに驚きの報告。

バーモント州にバーモントカレーは存在しません!

おそらくリンゴとハチミツをカレーにいれたら美味しかったので、その両方が名産品の一つであったバーモント州からその名前をとったのでしょう。

バーモント州の地元の人たち何人かに、「バーモントカレーって知ってる?」って聞いたら、「何言ってるの?」と返されました。

次の発掘プロジェクト

フリンダース大学マウントダットンベイ発掘調査(オーストラリア:2016年)

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