社会人の皆様へ

実は大学院で水中考古学を学ぶことだけが水中遺跡で働く道ではありません。例えば私が参加しているプロジェクトは大きなもので20~30人ほどの参加者がいます。その中で水中考古学の学位(修士号)を持っているのは半分程度、博士号取得者は多くても2人か3人程です。大学の教授になりたい・自分でプロジェクトを立ち上げたいとなりますと(水中)考古学の博士号取得は必須になります。しかしながら水中考古学関連のプロジェクトに参加したいだけとなると実は水中考古学の学位を持っている必要はないのです。むしろ1つの水中発掘の現場に博士号を持っているような専門家が多すぎては意見の衝突がおこりプロジェクトが上手く回りません。なので私のブログに出てくる水中発掘の参加者たちのほとんどが、考古学を学んでいる大学生、地元ダイバー、水中カメラマンの方々で、水中考古学博士は私と各プロジェクトのリーダーぐらいなものなのです。実はダイビングが趣味な一般社会人の方もたくさんいます。

残念なことにこのうちのほとんどの参加者はボランティアで給料は発生していないか、完全に自費でお金を払いプロジェクトに参加しています。(しかしお金を払えばプロジェクトに参加できるというわけではないので注意してください。)それでも水中カメラマンや参加ダイバーの中には給料をもらいながら参加している方もいます。彼らはこれらの水中考古学プロジェクトに最初は自費で参加し、プロジェクトに有益(働き者)と認められると翌年からプロジェクトから交通費・滞在費・食費がだされプロジェクトに招待されるようになります。更にその後プロジェクトになくてはならない人材と認められると給料が発生するようになります。

海外の大規模な(15人以上の参加者がいる)水中発掘プロジェクトのメンバーにはこのようなボランティア参加者がほとんどで、彼らはやがて水中発掘の経験が豊富になり、重要なプロジェクトメンバーとなっていきます。これには水中考古学の学位は全く必要ありません。水中発掘の経験値が重要なのです。さらに参加していたプロジェクトのリーダーが次に他の水中発掘プロジェクトを立ち上げた際には、彼らは高確率で以前のプロジェクトチームメンバーの中からメンバーを招待します。ギリシャでは建築家が、マルタ共和国ではソフトウェア開発者が、フィンランドではサウナ用品販売の会社員が水中発掘メンバーとして10年以上様々な水中考古学のプロジェクトに参加していました。

このように特に大学教授になりたいとか自分のプロジェクトを立ち上げたいということでなければ、学位取得などは関係なく、積極的に水中考古学のプロジェクトに参加し、経験を積めば数多くの水中発掘プロジェクトへの参加が可能になります。実はこの方が大学院で 博士号を取るということより近道なのです。皆さんがどのような職業の方でも関係ありません。水中考古学の発掘プロジェクトは数年間にわたり行われていることがほとんどです。まずは新聞やインターネットなどでどの様なプロジェクトが現在行われているかを調べ、それらのプロジェクトリーダー、または参加者に、どの様にすればプロジェクトに参加させてもらえるかしつこく聞いてみてください。誰にでも水中考古学プロジェクトに関わるチャンスがあるのです。

ただ注意していただきたいのが、いくら皆さんが水中発掘の経験を積んでも、自分たちで勝手に発掘をしてもいいというものではありません。許可を取らないで発掘を行なっては文化遺産の破壊活動とみなされ、場所によっては逮捕されてしまいます。(発掘の許可を取るためには、しっかりとした発掘研究の指揮を行うための訓練を受けている証拠としての学位取得が必要になります。)

しっかりと専門家に聞くなどの下調べをして、いかがわしい考古学プロジェクトに参加しないようにくれぐれも気をつけてください。

文化遺産は考古学者の所有物でもなければ、政府のものでもありません。遺跡は人類共通の遺産で、その知識は全て皆さんへ還元していかなければなりません。私はいつか水中考古学を好きになっていただいた皆さんとも人類の歴史の謎を解き明かすための水中発掘を一緒に行っていきたいと考えています。

水中考古学、面白いですよ!

 

水中考古学者になるためには? 考古学研究以外の研究者・学生の皆様へ、

 

 

 

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