はじめに、
「フォトグラメトリ」というデジタル写真から3Dモデルを作成することができる技術は、ここ10年で急速に考古学の現場で使われるようになりました。もともとこの技術は、2010年頃まではごく一部のプログラマーやコンピューターの専門家だけの間で使用されていたのですが、現在では様々なフォトグラメトリ用のソフトウェアの出現により、少しの写真とコンピューターの知識さえあれば誰にでも精巧な3Dモデルを作成できるようになりました。2019年現在では、フォトグラメトリ本来の使用目的である広範囲の3D地形地図作成だけではなく、映画やゲーム産業などで幅広く使用されているます。ここでは私がどの様にこのフォトグラメトリを水中考古学に活用し、水中考古学の発掘・研究を行っているか紹介します。
私が初めてフォトグラメトリを使用したのは2013年頃です。その後2014年頃から本格的にこの技術の実用性と可能性を感じ、それまでの自分の水中発掘や発掘後の研究内容に合わせ、水中考古学に適用したフォトグラメトリの使用方法論を組み立てました。それまでの2014年以前では、フォトグラメトリを使用した学術研究はあまり水中考古学の権威と呼ばれる先生方に受けられていませんでした。彼らの主張は「デジタル技術を使用した3Dモデルデータは見た目頃綺麗だけど、そこからは貴重なデータを取り出すことができない。」というものでした。実は私も彼らの主張にはおおかた同意していました。しかし同時に、手作業ではどうしても記録作業に時間がかかってしまい、またそこから取り出すデータの正確性にも疑問を抱いていました。そこで私は本来の沈没船研究の視点から、見た目の良い3Dモデルの作成を目標にはせず、フォトグラメトリから研究に必要不可欠なデータを効率よく正確に取り出すための方法論を作成し、学会発表や学術誌での投稿を行い、その方法論が水中考古学者の間で認められて今のように世界各国の研究機関から発掘補助の依頼や講義依頼などを受けさせていただけるまでになりました。
今回ここでは、私が海外の大学生や大学院生にフォトグラメトリを教えるときの最初の授業でイントロダクションとして使用しているパワーポイントのスライドを使いながら、何故フォトグラメトリは水中考古学に有効なのか、どの様にこの技術を使うべきかを紹介していきます。
写実的な3Dモデル
これは私が2014年にクロアチアで作成したグナリッチ沈没船のCGアニメーションです。まず第一にフォトグラメトリが他のスキャン技術と比べ違う(優れている)のは、3Dモデルがデジタル写真から作られているという点です。その為作成された3Dモデル表面の見た目の色や質感がまるで実物のような3Dモデルを作成することができます。遺跡の表面は貴重な情報の宝庫。この様に遺跡の表面に現れて色や文様などを正確に記録する必要がある場合には、寸法だけを正確に記録するレーザースキャンではなく、細かな質感まで再現できるフォトグラメトリの方が優れているのです。

現在使われている「フォトグラメトリ」には様々な呼び名があります。日本では「フォトグラメトリ」の他に「写真測量」または「多視点ステレオ写真測量」という名前がよく使われています。更に他の学問研究分野では「エス・エフ・エム(SfM)」「ストラクチャーフロムモーション」などと呼ばれており、学問分野や国や地域によってその呼ばれ方が変わってきています。しかしこれらの呼び方が示している技術は全く同じ(同一技術)なのです。例えば日本やアメリカではサッカーのことを「サッカー」と呼びます。しかしヨーロッパ諸国ではサッカーのことを「フットボール」と呼んでいますね。しかしながらこの二つの呼び名が示しているスポーツは全く同じ競技であり、たんに国や地域によって人々の使用する呼び方が変わっているだけなのです。このように今後もし皆さんが上記の名前を見たら、どれもフォトグラメトリという全く同じ技術を示したものであるということを頭の隅の方にとどめてお置いてください。
それでは具体的にフォトグラメトリは、どのように手作業による記録作業や他のスキャン技術よりも優れており、水中考古学者達に好まれて使われているのかを見ていきましょう。
1.フォトグラメトリと水中考古学(なぜ水中考古学者はフォトグラメトリを使うのか?)
2.遺跡のデジタル保存
3.遺跡データの活用
4.未来へ、
