グアム (2017)

グアム大学海事考古学特別授業

(Maritime Archaeology Field School at University of Guam)

担当教授:ビル・ジェフリー博士 (Dr. Bill Jeffery)

場所:グアム

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夏の課外授業中に行われたグアム博物館での講演会の海事考古学者達。

2017年の夏にグアム大学の夏の課外授業の特別講師の依頼を受けました。このように私の仕事の約1/4がその国の大学・大学院、政府の研究機関、国立・地方博物館などで「フォトグラメトリーを用いた3D実測図作成」のワークショップや課外授業の特別講師を務めることです。今回もグアム大学の教授を務めるジェフリー教授からの依頼を受け、他のプロジェクトの合間を縫って10日間、グアム大学の特別講師を務めました。

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課外授業に参加した学生たち。(写真:グアム大学、文化人類学部のフェイスブックページより)

この課外授業にはグアム大学の他にもアメリカ国内の大学から何人か学生が参加していました。海事考古学を学ぶことがことが出来る大学・大学院はアメリカやオーストラリア、ヨーロッパ各国にいくつか存在します。しかしながらこれらは既にプロとして働いている考古学者やダイバーを対象にしたものが大半です。ダイビングと考古学の実務経験が全くない大学の学部生達が参加できる課外授業は少ないのです。それゆえにこの課外授業にはアメリカ各地から学部生が参加していました。

この課外授業は1ヶ月に亘るものだったのですが、スケジュールの都合で私が参加できたのは終盤の10日間だけでした。特別講師は私を含め4人で、一人はグアム大学のビル・ジェフリー博士。ほかの二人は2017年3月のサイパンでのプロジェクトで一緒だったオーストラリアの保存処理の専門家のビッキー (Vicki Richards) と ジョン (John Carpenter) でした。

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ビッキー・リチャーズによる授業風景。水中で使用できる化学物質の測定装置の操作法を教えています。(写真:グアム大学、文化人類学部のフェイスブックページより)
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学生達の水中作業の様子。(写真:グアム大学、文化人類学部のフェイスブックページより)
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グアムの青くて綺麗な海。
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日本人の観光客も多い夕焼けの砂浜。

 

特別講義の第1週にジェフリー博士が海事考古学の概論を、第2週と第3週前半にビッキーとジョンによる水中保存処理の授業を、そして第4週には私が水中での3D実測図 (3Dモデル) の作成とそのデータの使い方を教えました。

第4週はまるまる私の担当ということで張り切って現地入りしたのですが、計画通り授業ができたのは最初の2日間だけで、後の4日間は学生たちが各自で3D実測図の作成の演習を行っている間、ジェフリー博士からのリクエストにより、第二次大戦中の水中遺跡の3D実測図作成のためにグアムの海で水中撮影を行いました。

ジェフリー博士によれば、グアムでも、今後はサイパンのように第二次世界大戦関連の水中遺跡の保護に本格的に取り組もうとしているとのこと。その足掛かりとしてインパクトのある3Dモデルの制作を行いたかったようです。

ジェフリー博士からは2016年時点でこの特別講師の依頼を頂いていたのですが、2017年3月に私(とビッキーとジョン)がサイパンで第二次大戦関連の水中遺跡保護の仕事をしていることを知り「先を越された」と思ったそうです。それゆえに、私には「グアムの学生の世話は自分に任せて、出来る限りよい3D実測図を作ってくれ」と言われました。普段から仲良くしてもらっているジェフリー博士の頼みだったので、私もいつも以上に頑張って3D実測図作成に取り組みました。

4日間で私が作成した3D実測図がこちらです。

 

上の4つは「シー・ビーのゴミ捨て場」(Seabee Junkyard) の3D実測図です。1番上が全体図で、続く3つがその中の個々の遺跡です。

「シー・ビーのゴミ捨て場」は戦争中の攻撃によってできた沈没船等遺跡ではなく、第二次大戦終了直後にアメリカ軍が使わなくなったものを水中にゴミ捨て場として廃棄することによって形成されたものです。現在では多くの観光客が訪れる人気のダイビングスポットにもなっています。ジェフリー博士は自身で数年前から、地元のダイバー達も使えるようにとこのスポットの地図(2D実測図)を作っていました。今回はまさにこの場所の3Dモデルを作成してほしいとのことでした。

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ジェフリー博士が数年前に作成した水中遺跡の実測図。単純な地図のようにも見えますが、DSM (Direct Survey Method) という手法に基づき数十回にもおよぶ実測を繰り返し、コンピューターソフトウェアを利用し作成された精確な実測図です。

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3D実測図の対象範囲としてはゆうに170m x 100m はあったと推察します。私が今まで作成した3D実測図の中で一番大きなものになりました。水深が約12mととても浅かったため、この3D実測図作成のために2日間で8回も潜ることが可能でした。

私のフォトグラメトリーの水中撮影では、浅いところでの作業は安全性が高いのですが、潜水病のリスクは少なく酸素ボンベも長時間もつので、作業に伴う肉体への負荷は大きくなります。その上この水中遺跡は透明度のよい場所にあったので、ある程度遺跡から離れた位置で泳いで写真撮影することが可能になります。そのため広い範囲をカバーして効率的に撮影を行うべく、対象物である遺跡とある程度距離をとって速く泳ぐこととなりました。この3D実測図を作成するために、私は2日間、1日約4時間(1時間 x 4回)、計8時間ものあいだ水中を全力で泳いでいました。

今回のグアムほどではありませんが、多くのプロジェクトでこのような過酷な肉体労働に従事するため、水中調査期間中は常に疲労困憊しています。(その上データ処理の作業なども行わないといけないために、夜も充分に睡眠をとることが出来ません。その分周囲の皆さんが優しく接してくれます。)

またジェフリー博士は、今年から、太平洋周辺の各国で協力して水中の戦争遺跡の保護活動を行っていきたいと考えています。博士はオーストラリア出身の水中考古学者で、長年にわたり太平洋の国々で第二次大戦の戦争遺跡の調査を行っており、この分野の第一線で活躍する学者として著名です。そんな彼の招集に応じて、第3週の後半、太平洋各国の海事考古学者が集まり、グアム博物館で講演会が行われました。

 

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グアム博物館で行われた講演会。グアム、オーストラリア、フィリピン、タイ、パラオ、アメリカ、そして日本から海事考古学者が講演者として参加しました。
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私は水中遺跡のデジタル技術による現場保存の理論と応用について講演しました。

これが講演内容です。

 

最後に一つのイメージをお見せしたいと思います。

Saipan in situ preservation
(写真:Vicki Richards)

これはサイパンで沈んでいる第二次大戦中に日本軍が使用した一つの上陸艇の2012年と2017年の写真です。写真から見て取れるようにわずか5年で見る影もなく破壊されています。これは2015年にサイパンを襲った超大型台風によるものではないかと考えています。

このように比較的新しい大戦の水中遺跡でも、いつ自然災害や悪質な観光客・ダイバーなどによって破壊されてしまうかわからないのです。

すでに戦争から70年以上が過ぎ、戦争を経験した世代が少なくなってきています。つまり戦争の悲惨な記憶を伝えられることのできる語り部が少なくなっているのです。私たち海事考古学者にはこれらの戦争遺跡が朽ちてしまう前に、その情報を様々な手段で保存し、次の世代に伝えていく義務があるのです。

ジェフリー博士もその使命を果たすために、様々な国の水中考古学者やユネスコなどの国際機関と協力を得て遺跡保護の為の活動を行なってきました。私も戦争に参加した日本人の子孫の一人としてこれらの戦争遺跡の記憶を次の世代に残していくための手助けをこれからも行っていきます。

 

 

次の発掘プロジェクト

コンバージング・ザ・ワールド・プロジェクト(バハマ:2017年)

 

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