サリーナ湾水中調査発掘プロジェクト
&マルタ大学大学院国際海事考古学フィールドスクール
プロジェクトリーダー:ティミー・ガンビン博士
場所:ゼムキジャ湾、マルタ共和国


2019年の6月は地中海に浮かぶ小国「マルタ共和国」で働きました。
マルタ共和国で働くのは2回目、前回は2018年の11月にマルタ大学で特別講師をしました。マルタ大学には数年前新しく解説された海事考古学の修士プログラムがあり、毎月特別講師を招待しており、私もその一人として教えていました。
本来だったら毎年11月に働く予定だったのですが、2月頃に急に連絡があり、時間があったら夏の初めににも来てくれとのこと。ちょうど6月に2週間時間があったので行ってきました。

マルタ大学で海事考古学プログラムを取り仕切っているのがティミー・ガンビン教授。ヨーロッパで精力的に新しい研究を行っている水中考古学の有名人です。仕事内容をあまり聞かされないまま行ってきました。何か質問しても笑ってごまかされる、豪快な人物です。こんな人たちと働いているから私も細かいことは気にしなくなってしまいました。
けっきょく6月の仕事内容は2つ。ひとつは修士論文に行き詰っている生徒が何人かいるので指導してほしい。もう1つはマルタ東部の湾内で20年前にビザンティン帝国時代の沈没船の目撃情報があり、それを探すための水中探査と発掘を大学院生のためのフィールドスクールにするので、それを一緒に教えてもらいたいとのことでした。ようは忙しい教授の代用件アシスタント。雑用でした。
でも大好きな国マルタ共和国で、友人でもある教授からの頼み。快諾し気持ちよく働けました。


今回教えたマルタ大学の生徒たちは、既に昨年の秋にも1週間集中講義をしていたので、久しぶりの再会。私はほかの招待教授たちよりも年齢が若いので、みんなとても懐いてくれていました。可愛い生徒達。彼らのキラキラした目を見ると私も水中考古学を学び始めたころの初心を思い出します。

マルタ共和国到着後の1週目は、何人かの生徒達の修士論文の指導。生徒の一人は「水中遺跡の保護」をテーマにしたいとのこと。なので手ごろな水中遺跡に潜りながら、どの様に水中遺跡を評価し(価値を見出し)、保護していくかなどを一緒に考えました。
そしてちゃっかり空き時間には教授からフォトグラメトリの依頼も来ました。今回は水深40mにある第2次大戦中のイギリスの戦闘機の3Dモデルを作成。



そして2週目からはフィールドスクールが始まりました。




フィールドスクールの内容は機材の準備や組み立てなど、水中でのベースラインのひきかたなど基礎中の基礎。でも多くの生徒にとっては初めての経験。みんな本当に一生懸命。やだ、可愛い!
親心が芽生えます。
残念ながら私はほかの仕事のために2週間続いたフィールドスクールの1週目の終わりに戦線離脱。結局この湾での水中発掘は何年も続きそうです。今回も楽しい時間を過ごせました。
そしてその他にも、今回の滞在中に嬉しいサプライズがありました。

テキサス農工大学の友人たちとの再会。
私はマルタ大学での仕事でマルタに。私の担当教授の一人だったクリスマン教授(私の隣)は娘さんがマルタ大学に留学しており、娘さんと夏の休暇を過ごしに。私のクラスメイトだったデイブ(中央左)は夏に他国で行うプロジェクトのためRPM Nautical Foundationというマルタに調査船を停泊している学術団体と打ち合わせをするため。同じくクラスメイトだったステファニー(左)は春先からRPM Nautical Foundationで働き始めており、調査船が停泊しているマルタに準備のため数日前にやってきました。
アメリカで一緒に研究していた仲間達が、それぞれの目的で偶然地中海の小国に同時期に居合わせました。これにはびっくり。


クリスマン教授はアメリカの水中考古学会の権威。私の年齢のころには既にテキサス農工大学の教授となっていた恐ろしい研究者。なのに誰よりも争いを好まず平和主義者(競争の激しい教員の中ではとても珍しい性格)。そして彼のクラスは大変なことで有名。(私も毎学期徹夜を強いられました)。でも凄い気さく。
クリスマン教授とは2015年に彼のプロジェクトで2カ月一緒に住みながら働いてから特に仲良くなりました。博士号の最終試験に受かってからはよくご飯にも連れて行ってもらいました。どのくらい仲が良いかというと、、、暗に彼の大学生の娘さんを勧めてくるほど。(ロリコンじゃねぇよ!とは言わず聞こえないふりをします)。もちろん冗談なのですが、そんな冗談が言えるほど仲が良いのです。

そしてクリスマン教授をガンビン教授にも紹介できました。知る人が見たらヨダレものの写真。題名「アメリカとヨーロッパの巨頭に挟まれるアジアの小物」。

デイブは大学院のクラスメイトだったのですが、もともとアメリカ海軍の原子力潜水艦の艦長を務めていた超エリート軍人。若い頃の写真を見ると実物キャプテンアメリカ。
でも全然威張ったりしていなく、大学院生みんなから慕われていました。アン・ハサウェイとロバート・デ・ニーロが主演の「インターン」という映画でデ・ニーロが演じたキャラがそのものです。
こんな大人になりたいと思わせてくれると同時に、新しい勉強を始めるのに年齢は全く関係ないということを背中で教えてくれました。彼はエンジニア出身で、50歳を超えてから新たに水中考古学を一から始めたのです。潜水艦とは全く関係ない古代ローマ船の研究をしています。今では数々のプロジェクトを取り仕切るエリート水中考古学者。憧れです。
(つまり何を言いたいかというと、定年退職した日本人の皆さんが新たに水中考古学の世界に飛び込むことを勧めています。)

ステファニーは仲の良いグループ(ほぼ生徒全員)の友人でした。多くの優秀なクラスメイト(友人・同僚)に恵まれたのも私が大学院を生き延びれた大事な要因でした。
勉強のストレスが溜まったらみんなで集まって映画を見たり飲んだりしていました。大切ないい思い出です。

美しく何千年の歴史のあるマルタ共和国で、可愛い生徒たちに囲まれ、仲の良いアメリカの友人とも再会できた最高の2週間でした。
話が外れてしまいましたが、ビザンティン帝国の沈没船は私が離れた後、その錨が見つかったそうです。もうすぐ本体も発見できそうだとのこと。
2020年はどんなマルタ大学の生徒たちに出会えるのか?そしてビザンティン帝国の船の水中発掘は?
マルタ共和国は楽しみしかない大好きな職場です。

