ウルグアイ (2017)

マルドナルド湾沈没船調査プロジェクト (Maldonado Shipwrecks Project) 

プロジェクトディレクター:アレホ・カルデロ (Alejo Cardero)

場所:プンタ・デル・エステ、ウルグアイ

水中考古学 ウルグアイ 1
ウルグアイの水中現地調査のメンバー。私の隣でスーツケースによりかかっているのがプロジェクトディレクターのアレホ。

2017年、南米のウルグアイで1809年に沈んだイギリス海軍の戦艦アムガメノンの水中調査を行いました。

ウルグアイは大国ブラジルとアルゼンチンの間に位置する北海道ほどの小さな国で、ウルグアイ人いわく、ウルグアイという国は「アルゼンチン人がブラジルの敷地に住んでいる」場所である。ウルグアイは裕福なブラジル人とアルゼンチン人の観光地となっていて、物価が高く南米屈指の豊かな国になっています。

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対岸に見えるのがウルグアイ屈指の観光地でもあるプンタ・デル・エステ。

今回はイギリス海軍のネルソン提督の一番のお気に入りの船だったとして知られている「アムガメノン」の水中調査。ネルソン提督はナポレオン戦争やトラファルガー海戦で活躍したイギリス海軍の提督として知られており、彼がその記述に「一番良い船だった」と記していたアムガメノンはネルソン提督ファンの間では伝説の船となっていました。その精確な沈没船の場所が見つかったので、ウルグアイ海軍によってアメリカ大陸の各国から水中考古学者が集められ調査チームが編成されました。

アメリカ大陸以外から招集されたのは私一人だったのですが、何しろウルグアイは遠い!

関空からダラスまで13時間、ダラスからマイアミまで3時間、マイアミからウルグアイ首都のモンテビデオまで8時間。お尻が痛くなりました。

アムガメノンが沈んでいるマルドナド湾は深いところでも水深5m程ととても浅く、砂地の海底となっています。今回は約2週間の調査だったのですが、風が強く波がたっており、予算が少なく小さな2人乗りのボートしかなかったため、5日しか水中調査が出来ませんでした。そのうち透明度が1m以上あったのは2日だけでした。消化不良です。

水中考古学 ウルグアイ
風が比較的弱く、潜ることができた日でも水中の透明度はこんな感じでした。私が次の仕事で帰った後、透明度は少し良くなったそうです。

ほとんどの日の海中の様子は透明度30cm程でした。フォトグラメトリーには最低でも50㎝以上。出来れば1.5m程の透明度が必要なのです。透明度が50㎝でもなんとか3Dモデルはつくれるのですが、その範囲は1m x 1m程になってしまいます。この場所で唯一行なった3D実測図は透明度が1m程の日に2m x 2m程の範囲で戦艦上部に取り付けられていた対人用のキャノン砲でした。

しかし、このように天候に左右されやすい水中考古学の現地調査では、水中調査を中止せざるをえないことはよくあるのです。

天候が悪い日(風が強い日)はプンタ・デル・エステの街の対岸にある島で、スペインの砲台の3D実測図を作ったりしていました。

またプロジェクトの後半には何故かアルゼンチンのテレビ番組制作会社が、フランスのテレビ局用の短いドキュメンタリー番組を作りに来ました。

このプロジェクトのディレクターのアレホは、ウルグアイ海軍の水中文化遺産を管理する部署に勤めており、今回のプロジェクトには彼の呼びかけで中・南米から水中考古学者が集められていました。

以前にコロンビアでの水中発掘を行った時も中・南米から水中考古学者が何人も手伝いに来ていました。中・南米の国の多くがスペイン語をはなします。これらの国々で海事考古学がまだ盛んではなく、水中考古学者が不足していた頃から、水中で作業できる各国の考古学者たちが協力して水中文化遺産の保護を行ってきたのです。

これらの海事考古学者が自国で重要なポジションについてからもこの連携体制は続いています。私も以前にコロンビアで働いたときにこの連携体制の中に加わり、それ以降、中・南米での海事考古学の手助けをするようになりました。(でもスペイン語は話せません。)

そのため、私も中・南米の海事考古学者に友人が多く、重要な水中現地調査でも彼らと楽しく過ごすことが出来ます。

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ウルグアイ名物「アサド」。美味しすぎます。 なぜ塩だけであそこまでのうまみが出るのか!?謎です。

話題を食事に切り替えます。

ウルグアイは肉食文化の国でバーベキューが盛んです。そのため食肉の品質と鮮度にこだわっており、国を挙げて牛の管理をしています。個人的な感想ですが、おそらく日本の魚に関する輸送と市場に関連するシステムが他の国より発達しているような感覚で牛肉の流通市場が発展しています。

地元に肉屋に行くと、店内に甘い香りが広がっています。日本の肉屋の新鮮な肉屋の香りとかではなく、ウルグアイの肉屋ではひたすら肉から甘い香りが漂ってくるのです。

水中考古学 ウルグアイ
アサドのBBQシステム。洗練されています。

バーベキューの方法も特別です。まず肉を置いてある網の横にU字状の格子あり、そこでマキを燃やします。しばらくたつと、このマキが黒ずみ、ボロボロになって熱で赤くなったまま格子の下に落ちます。それを横にある肉の置いてある網の下にスライドさせます。この網は低くつくられており、この黒ずんだマキ(炭)の熱で1時間以上かけゆっくりと火を通すのです。

これが肉の新鮮さと相まってとてつもなく美味しい!味付けは塩のみです。このバーベキューは「アサド」と呼ばれます。私たちのチームは街から少し離れたコテージに住んでいたのですが、毎晩ひたすらバーベキュー!もうひたすらバーベキュー。

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冗談ではなく、毎晩アサド。
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コテージが今回の調査チームの基地。毎晩バーベキューを食べつつのパーティーでした。さすが南米。
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水中考古学でウルグアイを訪れ、あまり潜ることなく、毎晩ひたすら肉を喰らう。

この水中現地調査と並行して行われていた地元のダイバーや考古学者のためのワークショップに講師として呼ばれていたアメリカ人女性考古学者のエミリーは、途中で「やってられるか!」といって自分用のサラダを買いに行っていました。でも肉食男子の私としてはとても嬉しい食生活でした。

水中発掘の予算が取れればプロジェクトを再開するようです。すぐにでも「アサド」とウルグアイの友人に会いにいきたいです。素晴らしい時間を過ごせました。

次の発掘プロジェクト

フォーニ島水中調査プロジェクト(ギリシャ:2017年)

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