<特別編>女性研究者と水中考古学

ここでは<特別編>として「水中考古学」と「女性」の現状を紹介してみたいと思います。とは言っても、私は主にヨーロッパや北中南米で働いているので、日本の状況はわかりません。あくまで欧米での話です。そこはご了承ください。是非男性にも最後まで読んでもらいたいと思っています。

実は「水中考古学」、特に私の専門とする「船舶考古学」または「海洋考古学」は恐らく皆さんがかんがえているよりもずっと女性研究者が多い学問です。「数が多い」というよりは「優秀な女性研究者が目立っている」と言った方がいいかもしれません。これは海外だから当然だと思われるかもしれませんが、海外の他の学問分野に比べても、水中考古学は女性研究者の割合が多いんです。(アメリカでも工学系はどちらかというと男性ばかりでした。)

さすがに70代や60代の現役としては一番上の研究者世代では男性研究者が目立ちます。(水中考古学の父といわれるジョージ・バス博士の世代ですね。)しかし50代のトップで活躍する水中考古学者達を見ると、男性と女性の割合が半々ぐらいになります。例を挙げますとフランスのジュリア・ボエト教授、イギリスのルーシー・ブルー教授、クロアチアのイレーナ・ロッシ教授などです。世界の水中考古学を、女性研究者で教育者でもある彼女たちが積極的に引っ張ってくれています。彼女ら若い頃は、確実に男性研究者が多かった時代です。なのに世界各国の水中考古学を率いている研究者の約半分が女性というのが凄い。どれほど彼女たちの能力が研究者として卓越しているのかがわかります。彼女達以外でも欧米諸国の水中考古学の研究者数の男女比を見たとき、半数は女性です。単純に性別がどうのこうではなく、研究者として優秀で良い教育者なのでしょう。

40代の水中研究者の数の割合を見ると、少しだけ優秀な研究者の比率(人数)で女性の数は減りますが、しかしながら、この世代のトップ2の水中考古学者は女性です。アメリカのイースト・カロライナ大学のジェニファー・マクキノン教授とオーストラリアのフリンダース大学のウェンディ・ヴァン・ドゥイヴェンドーヴェ教授。研究者としても教育者としても間違いなくこの二人がトップです。リーダーシップと研究能力が図抜けています。私も同じ水中考古学研究者として彼女たちの実績は恐ろしい程桁外れです。

30代の水中考古学研究者を見ると、目立つのは男性研究者になります。これはあくまで個人的な感想なのですが、優秀な女性研究者は20代後半にパートナーを見つけ、仕事をしながらも30代後半と40代前半に子育てに集中します。そして40代半ばに水中考古学の第一線に戻ってきて、わずか数年で実績を積み、一気に男性研究者達を追い抜いていきます。なので現場での経験量が求められる考古学では、30代と40代前半までは割合として目立つが男性なのかもしれません。しかし数年のブランクがあったとしても、優秀な女性研究者達は第一線に戻ってきた瞬間に、これまでの遅れを取り戻しても余りある「内容の濃い研究」を行い、男性研究者を追い抜きます。やはり研究者として優秀で賢いのでしょう。

ただ偶然か、私がとても優秀だと尊敬する女性研究者は、本当に頭がよくリーダーシップもあり性格もよいので、素晴らしい男性パートナーを得ています。彼女たちのパートナーに選ばれる男性もまた優秀な男性の考古学研究者が多い印象を受けます。彼ら自身もとても性格のいい男性ばかりで、二人で家事をと子育てを分担しながら、研究と家庭面の両方でお互いを支えあっています。「仕事」か「家庭」を選ぶのは時代遅れなのです。本当に優秀な研究者は男女にかかわらず両方を手にしています。

結果的に大学や研究機関としても優秀な研究者2人も失いたくないから、教員や職員になった女性研究者に数年遅れて、パートナーである男性研究者も雇います。つまり水中考古学のトップとして活躍している女性研究者らはしっかりと人生計画をたて、考えられる最高のパートナーを手にし、子育てと研究が両立できる環境を自らつくりあげ、子育てがひと段落して本格的に研究や現場に復帰してから一気に他の男性研究者をごぼう抜きにしていっています。これが紛れもない水中考古学の事実です。

そして20代、つまり大学院生の男女比をみると、ここ10年でまた一段と女性の数が多くなってきています。単純に数が増えているというのもありますが、私が各国の大学院で臨時特別講師として教壇に立たせてもらって受けた印象としては優秀な女性生徒が多くなってきています。ちなみに私の母校であるテキサス農工大の船舶考古学プログラム(大学院)では、過去7年(2019年~2013年)で男性生徒が23人、女性生徒が26人になっています。https://nautarch.tamu.edu/academic/students.shtml

更にここ2016年以降の傾向としては、男子生徒が修士課程、女子生徒が博士課程に行く傾向があります。もちろん男性も優秀な学生は山ほどいますが、私よりも若い世代で目立って優秀な生徒は、女性が多い印象を受けます。

もちろん「男性」と「女性」は違うところもあるので、未だに「女性だから」とか「男性だから」とかいう言葉を使う水中考古学研究者がいるのも事実です。ただこういった文句を言う学生や研究者は、言い訳としてこのような言葉を使うので優秀ではない方ばかりでした。優秀な学生・研究者というのは男女関係なく、お互いに協力し、そして競い合って切磋琢磨しています。

この「優秀な女性研究者が多い」というのも水中考古学が他の学問分野より顕著にその傾向が表れてます。そのため「女性の進出」という一点で言えば、水中考古学は極めて成功している分野といえるでしょう。

欧米の「水中考古学」でこれがいち早く成功できたのは、水中考古学という学問において、早い時代から「若い研究者に平等にチャンスが与えられていた」ということがいえると思います。それは「男性」だからとか「女性」だからとかは関係なく、純粋に「優秀な研究者の台頭」を促してきたからでしょう。おそらく今の50代のトップに女性研究者が多い、彼女らが若い時代からその傾向があったのでしょう。今はその環境の中で育った優秀な研究者が教育者として世界各国で教鞭をとっています。なので必然として男女関係なくまた若い優秀な研究者が育ち、学問としての船舶考古学・海洋考古学を底上げしているのです。

つまり水中考古学は、優秀であれば男性か女性かは関係なく活躍できる環境で、女性にたまたま優秀な研究者がいたということなのでしょう。もちろん優秀な男性研究者も負けず劣らず多くいます。

水中考古学の世界を見ると、大学でも学会でも「男性」か「女性」かを気にしている研究者は本当に少ないです。まず他人を気にしている人は、言い訳作りに気を取られて、十分な研究結果を残せていません。言い換えれば「結果を残せてないので、他人の研究結果以外の場所に、攻撃できるところを探している」のでしょう。研究とは自分との戦いでもあります。そして同僚の研究者は協力し合うするためにいるのです。歴史の謎を紐解くのが考古学であって、他の研究者の足を引っ張り合うのを考古学とは言いません。

大事なのは、
①性別人種年齢に関係なく平等にチャンスを与えるられていること
②完全な実力主義であること
③だたその評価は成績だけでなく、人間性や経験、将来性も含めた総括的な判断であること
④そしてその評価基準は透明であり、選ばれなかった研究者が自分に何が足りなかったか理解し、修正し、またチャレンジできる環境であること。

なのです。

こうあることで、優秀な人材が育ち、学問としての底上げになっています。

水中考古学は若い学問で、全てが完ぺきというわけではありません。ですがこの「透明な実力主義」はこの学問な中で上手く機能していると感じています。水中考古学は考古学の中でもマイナーな分野でありますが、世界で注目され、急成長を続けているというのはこのような優秀な人材が育っている環境があるからなのです。

上記で紹介した、私の水中考古学に対する評価は事実であって、私がフェミニストというわけではありません。むしろ私を個人的に知っている方は、私が大の女性が嫌いだというのは十分知っているはずです。

しかしこんな女性不信の私でも、研究者としての同僚女性研究者は大好きです。理由は単純に、彼女たちに優秀な研究者が多く、一緒に仕事をしていてとても多くのことを学べるからです。

さて、日本はまだ「大きな学術分野」としての水中考古学は始まっていません。私を含めた日本人研究者が各地でちらほら活動している程度です。しかし近い将来、100人以上の水中考古学研究者が日本で活発に活動する時代が来ます。その時に性別・年齢・人種に関係なく優秀な人材を育て、活躍してもらえるか。それによって学問分野として発展していけるか否かが決まります。

全ては優秀な人材が多く育てることが出来るかにかかっています。

つまり今回のブログで、ここまで長々と何が言いたかったかというと、

性別・年齢・人種・国籍に関係なく、優秀な人材には、日本でどんどん水中考古学をはじめてもらいたいということです。

人材の少ない水中考古学だからこそ、いまこそ飛び込むチャンスです。ちょっとでも「勉強ができる」「手先の器用だ」という方は、努力を少しすれば確実に世界トップの水中考古学研究者になれます。

なぜなら「運動神経皆無」で「頭の悪い」この私でさえ、一応、世界各国で働けるプロの水中考古学者になれているからです。私がその生き証人です。

  

  
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