クロアチア (2019)

2019年も2018年に引き続き多くの時間をクロアチアで過ごしました。仕事の数が多いので今回は時系列に沿って書き出してみます。

1月:ダイバーのためのフォトグラメトリワークショップ(首都ザグレブ)

なんと2019年は年明けもクロアチアで過ごしました。そして1月2日から4日間の日程でクロアチアの首都ザグレブでダイバー向けのフォトグラメトリ3次元測量ワークショップを開催しました。クロアチアはダイビングコミュニティと考古学者達の連携がよく取れている国で、クロアチア国内の多くの水中遺跡が各地域の地元ダイバーさんたちによって発見されてきました。その後研究者による発掘調査が終わった遺跡の中には一般公開されている沈没船遺跡も多く、地元のダイブショップは水中遺跡に観光客を案内しながらクロアチアの海の歴史を広め、また収益を得ています。

私がクロアチアで関わっていた水中調査チームには例外なく地元ダイビングショップのダイバーさんたちが参加していました。そんなダイバーさん達から、自分達でも水中遺跡の3Dモデルをつくっていきたいという要望を頂き、1月にクロアチアのダイビングショップを経営しているダイバーの皆さんを集めての首都ザグレブでフォトグラメトリワークショップが開かれました。

真冬をクロアチアで過ごすのは初めてでした。クロアチアは地中海の国なのでどうしても夏のイメージがありますが、中世のヨーロッパの街並みと雪の中で行われるクリスマーケットと、地元の家族が行きかう冬のクロアチアも美しかったです。
  
  

4月:ザダー大学フォトグラメトリワークショップ(ザダー)

他の国での仕事を済ませ、次にクロアチアに戻ってきたのは4月でした。仕事はいつもお世話になっているザダー大学からの依頼で、大学院生を中心とした生徒たちにフォトグラアメトリのワークショップを開催することでした。参加生徒は考古学だけではなく、ロボット工学、海洋生物学、博物館学など様々でした。私のブログにもよく出てくるザダー(グーグル翻訳・地図だとザダル)は中世の街並み残る港町で、街中からは古代ローマの遺跡なども多く発掘される歴史のある石畳に覆われた、夕日の美しい街です。

私にとっては住み慣れた街でのワークショップ。クロアチアには2012年から毎年のように来ているので友人も多く、そのなかでも沢山の友人がザダーに住んでいるので地元にいるような感覚でした。余談ですがクロアチアで近年流行っているのが日本料理。クロアチアの他の町でも寿司を中心とした日本食レストランは見たことあったのですが、ついにザダーにも2店立て続けにオープンしました。

しかもこのザダーは日本へ輸出するためのマグロの養殖も盛んで、年に一回「マグロ祭り」があり寿司が振舞われます。今年は開催時期にザダーに滞在していたので行ってきました。寿司の味は期待外れでした。

 

4月:考古学博物館フォトグラメトリワークショップ(首都ザグレブ)

ザダー大学でのワークショップが終わるとすぐにクロアチアの首都ザグレブで別のワークショップを受け持ちました。依頼主はクロアチアの国立考古学博物館。彼らもザダー大学とは別に独自の水中発掘調査をやっており、フォトグラメトリの技術を習得したいとのことで依頼が来ました。

ちなみに20年間で一気にヨーロッパを代表する水中考古学大国になったクロアチアは、私がいつも依頼を受けている「国立ザダー大学」以外にも「国立博物館」「ザダー考古学博物館」「UNESCOセンタークロアチア・ザダー支部」をはじめ、各町の考古学者達が水中調査を行っているのです。彼らは水中での発掘調査技術を学んだ陸上を主とする考古学者達で、いわばクロアチアに水中考古学専任の研究者はいません。

これは極めて王道なアプローチであり、私も「水中考古学者」というものはカテゴリーとして厳密には存在しないと考えています。私は「造船史研究者」であり、水中遺跡全てを行っているわけではなく船の遺跡が専門です。たまたま自分の研究対象が沈没船として水中で見つかることが多く、そのため水中に潜って発掘をしています。日本だとどうしても「水中考古学者」などというぼんやりとしたカテゴリーがあるせいで、「見えない壁」が「考古学者」と「水中遺跡」の間に出来てしまっています。日本もクロアチアのように陸上で発掘研究をしている考古学者達が週末を利用してダイビングライセンスを取得すれば、数年のうちに世界を代表する水中考古学大国になれるのです。期待大です。何にせよクロアチアは日本が辿るべきよい水中考古学のケースモデルなのです。 
  
  

8月:グナリッチ沈没船水中発掘プロジェクト(ビオグラード)

プロジェクトリーダー:イレーナ・ロッシ博士

8月は毎年恒例のグナリッチ沈没船の水中発掘プロジェクトでした。いつも通りのプロジェクト!と言いたいところでしたが、2019年の調査は少しばかり様子が違いました。なんと「日立、世界ふしぎ発見!」の取材チームがわざわざ日本から来てくださいました。今思い出してもとても楽しい時間。4日間の密着取材。ただただ私たちが働いているところを撮影していただけかと思いきや、11月の放送を観たらわかりやすい構成で素晴らしく沈没船の歴史を伝えて下さっていました。

そして皆さん素晴らしい方々でした。短い間でしたが久しぶりに日本語を話しながらワイワイできて楽しかったです。クロアチアチームもこの素晴らしい日本からのお客さんたちに大喜びでした。ひたすら感謝です。(詳しくはこちらをご覧ください。「ふしぎ発見」取材裏話

発掘調査自体は一カ月弱、今年は調査隊も少人数で作業が大変でしたがとても楽しい時間を過ごせました。考古学犬マーラも昨年よりは立派になっていました。まだ落ち着きはないですが、先代のギタに続くべくしっかりと訓練を続けています。

8月:アドリアス・フォトグラメトリワークショップ初級編(ドゥブロヴニク)

グナリッチ沈没船の水中調査が終わるとすぐにクロアチア南部の世界遺産の町ドゥブロヴニクに移動し、別のフォトグラメトリワークショップが開催されました。昨年からドゥブロヴニクで開催している国際ワークショップ。今年もヨーロッパ各地から参加者が来てくれました。今回はワークショップ開催の告知が1カ月前だったのであまり人数が集まりませんでしたが、それでも地球の反対のオーストラリアから2名の考古学者が参加してくれたのは嬉しかったです。

ドゥブロヴニクは私の大好きなアメリカのテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の舞台の一つとなっている場所。ドラマ自体は最終シーズンがとても残念な仕上がりになっていましたが、それとは関係なく1週間のワークショップを参加者の皆さんと楽しめました。ドゥブロヴニクにはいい思い出しかありません。

  

9月:アドリアス・フォトグラメトリワークショップ上級編(コチュラ島)

ドゥブロヴニクでのワークショップが終わると、続いてドゥブロヴニクから2時間ほど北に行った場所にあるコチュラ島で、実際の未発掘の沈没船遺跡を使いフォトグラメトリワークショップの上級編を開催しました。上級編では実際に水深30mにある水中遺跡で、参加者たちは私が普段やっているのと同じ順序でフォトグラメトリによる3次元測量を行い、技術を習得していきました。

約一週間のワークショップ。ドゥブロヴニクと違ってとても静かな島での水中作業でした。このワークショップで何よりも驚いたのが今回作業舞台となった水中遺跡。もともと何十年前かにクロアチア政府の考古学者によって調査され、重要ではない遺跡と判断された場所を今回のワークショップの練習場に選んだのですが、潜ってびっくり!明らかに未発掘の17世紀前半の巨大輸送船遺跡。恐ろしいほどの積み荷がまだ埋まっています。とても重要な遺跡でした。この様な水中遺跡がゴロゴロしているのがクロアチアのすばらしさ。人生がいくつあっても発掘しきれません。

  

9月:ジリエ沈没船水中調査(ジリエ島)

プロジェクトリーダー:イレーナ・ロッシ博士

9月の半ばには、最近3年間毎年行っている、クロアチア中部の島ジリエで紀元前4世紀頃の古代ギリシャの沈没船の水中調査を行いました。とは言ってもジリエ沈没船は岩場の上に沈んでおり、木造だった船体は残っていません。残っているのは積み荷のアンフォラ(ワインやオリーブオイルなどの液体を輸送するための古代の壺)のみです。ただやはり古代ギリシャ時代のアンフォラは歴史的にとても重要で、フォトグラメトリによる遺跡範囲全体の経年変化測定で遺跡の状態をモニタリングしつつ、博物館の要請に応じて保存状態の良い壺を引き上げ、保存処理のため研究所に運びます。

アンフォラは今年も臭かったです(詳しくは私のYouTubチャンネルの「水中考古学あるある」をご覧下さい。)

 
  

9月:ザトン沈没船(ザトン)

プロジェクトリーダー:ドゥシュカ・ロマノビッチ

9月後半から10月前半にかけてザダーから車で北に30分ぐらいの町ザトンで古代ローマ時代の縫合接合船の発掘を行いました。「縫合接合」という技術はもともとは地中海全体の古代ギリシャ文明圏で紀元前7世紀~4世紀を中心に使用されていました。その技術はその後地中海のほぼすべての地域ではペグド・モーティス・アンド・テノン接合にとってかわられますが、アドリア海ではその後も縫合接合が継続して使われいきました。なのでアドリア海からは多数の保存状態の良い縫合接合船が見つかっており、縫合接合という造船技術を理解するうえでとても貴重な考古学的サンプルとなっています。私自身も縫合接合船を発掘するのはこれが二隻目。とても貴重な経験をさせてもらいました。

ただ大変だったのが、このザトン沈没船がとても浅い場所で発見されたこと、、、作業効率は浅瀬の方が良いのですが肉体的につらくなります。普段は水深20m~30m辺りでの発掘が多いため、一回の海底での発掘時間も30分から45分程でした。しかしながら今回は水深4~5mでの発掘。そして空気タンクは18リットル(日本でよく見るタンクは大体11リットル。約1.5倍の空気量が中に入っています。)。そのため一回の作業時間が2~3時間。そして一日2回。水中での岩や土嚢の移動、精度を要求される水中発掘とタグ付けなどの作業、それを1日5~6時間行いました。過酷でした。約1カ月間で船全体をしっかりと発掘し記録することが出来ました。

そしてこれが2019年のクロアチアでの最後の仕事になりました。
   
  

2019年:クロアチア総括

2019年は年越しを過ごしたりと、私にとっては数ある国の中でも特別な国「クロアチア」。上には書いてませんが、オランダ旅行(ザダー大学学生の研修旅行の引率)したり、ワイン巡りをしたり、山に登ったり、伝統料理を習ったりと(詳しくは私のブログをご覧ください)、仕事以外の生活も充実してきちゃっています。クロアチアは唯一長期間毎年訪れている国。2012年からほぼ毎年(博士論文を書いていた2015年以外)仕事しています。特に大学院を卒業した2016年以降は、クロアチアをヨーロッパでの起点としてヨーロッパ各国に仕事に行っていました。私にとっては友人も多くとても大事な場所です。

2020年は残念ながらコロナ禍でクロアチアに行くのを断念しました。昨年まではクロアチアの青い海で仕事をしないで夏を過ごすことになるなんて考えてもいませんでした。クロアチアの友人たちとはこまめに連絡を取ってますが、みんな元気にしています。

私も2021年はコロナがおさまり次第またクロアチアでの仕事を再開します。待っててー!!!!

   
   
   
   

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