マルゲリータ島水中発掘調査プロジェクト(Expedition Isla Margarita)
プロジェクトリーダー:ロバート・フンコ博士(Dr. Roberto Junco)
場所:バハ・カリフォルニア・スル州、メキシコ

2018年1月にメキシコのバハ・カリフォルニア・スル州で水中調査に参加しました。水中調査の現場はサンタ・マルゲリータ島。カリフォルニア半島の太平洋側に位置する島です。近くの街から車で4時間走り、そこから船で30分ほどの場所にあるこの島は、小さな漁村と小さなメキシコ海軍の基地があるだけの大自然に囲まれた場所でした。
今回のプロジェクトの目的は、その島で発見されている20世紀前半の潜水艦遺跡1カ所と蒸気船遺跡2カ所で3D実測図を作成することです。
プロジェクトリーダーはメキシコ政府の考古学者で、同国内の水中遺跡研究を取り仕切っているロバート・フンコ博士でした。フンコ博士とはウルグアイでの発掘調査で知り合い、その後も香港やアメリカでの学会で一緒になることも多く、以前からとても仲良くしてもらっていました。
そんな彼から、一緒に発掘してほしい水中遺跡があると頼まれていましたが、私がアメリカに学会に来ていたタイミングで正式な依頼を受け、初めてメキシコにきました。メキシコ滞在中に街にいたのは数日で、大半を街から離れた大自然の中にあるメキシコ海軍の基地で過ごしました。沈没船の調査場所は基地からさらに船で2時間ほど離れた場所にあり、周囲を見回しても自然しかない場所でした。




実はこのように完全に町から離れた場所での水中調査は珍しいことなのです。
私が頂戴する依頼は沈没船に関わるものが大半ですが、古代から船が沈没する現場は港の近くが断然多いのです。沈没の原因として最も多いのが座礁です。入港するために陸地に接近した船が浅瀬に近づき過ぎて岩場などに座礁するのです。次に多いのが転覆です。商船などが積荷を多く積み過ぎたり、積み込む際に荷物の重さのバランスを読み誤ったため、出航後に風にあおられ港の近くで転覆するのです。このように沈没船の沈没場所と発見場所の90%以上が浅瀬であり、そのほとんどが港の近くになります。
港は昔から湾内に造られており、強風から守られている場所に存在していました。これら地形上湾になっている場所は、現在でも好まれて港として使われていることが多いのです。つまり古代に港として栄えた場所の付近は現在でも港町として繁栄していることが多いのです。
そのため、私がこれまで参加してきたプロジェクトは港町や観光地の近くが多く、今回のように完全に人里から離れた場所での水中調査は初めてでした。

サンタ・マルガリータ島はクジラの住処となっています。船の上からは常に近くにクジラが見え、水中作業中にはクジラの鳴き声が聞こえていました。またアザラシの住処も近くにあり、毎日何頭ものアザラシが遊びに来てくれました。野生のアザラシはとても人懐っこく、私たち人間を恐れる様子も全くありませんでした。これまで沢山の水中調査に参加してきましたがアザラシと一緒に泳ぎながらの作業は初めての経験でした。



今回調査した水中遺跡の一つは1920年に沈んだアメリカ海軍の潜水艦だということが判りました。他の2つは蒸気機関のボイラーの形から20世紀前半の蒸気客船「SSパナマ」と「SSインディアナ」であると推察しています。
USS H1 Seawolf Submarine

SS Indiana
SS Panama
Petrography
水中発掘チームのメンバーはプロジェクトリーダーのフンコ博士、もう一人のメキシコ政府の考古学者であるエストラーダ博士、プロダイバーのフラン、そしてレッドブルやナショナルジオグラフィックの契約プロカメラマンであるフェルナンデスでした。
今回は私が一番年下だったので、彼らからからとても親切にしてもらい、メキシコのお酒やその飲み方を教えてもらいました。あらためて水中考古学の重要な楽しみの一つは人との繋がりだと感じることができたプロジェクトでした。メキシコは素晴らしい国です。
