中学生・高校生の皆様へ

中学生・高校生の皆様が将来水中考古学者になるための進路を選ぶためには、まず漠然にでもよいので、将来は何処で働きたいかを考えてみてください。それが大学、またその後の大学院を選ぶ上での前提になるかと思います。

大まかにいいますと、国内か海外かです。

私は日本の大学を卒業し、アメリカのテキサス農工大学(Texas A&M University)で修士号と博士号を取得しました。現在は日本をベースにしながらも海外を中心に働いています。私の他にもこれまでに3人ほど海外の大学院で水中考古学(船舶考古学または海事考古学)の学位を取得した先輩研究者がいらっしゃいます。かれらは私のように日本の大学を卒業し、海外の大学院で学位を取得しました。その後は日本の大学や博物館で働きながら国内を中心に水中考古学者として活動しています。また海外留学しないで国内の大学院で学位を取得され活躍されている水中考古学研究者の方も数多くいます。

 

まず大前提にあるのが、日本国内でも海外でもやる気さえあれば誰でも水中考古学者になることは可能だということです。しかし、将来職業として日本国内で水中考古学をやりたいか、または海外でやりたいか、それによって大学院を日本で選ぶか、海外に留学するかが変わってきます。残念なことに日本国内の大学院で水中考古学関連の学位を取得しても、卒業後に海外に出て他国の大学や研究機関で水中考古学者として働くのは限りなく難しいといえます。その点では海外の大学院で水中考古学の学位を取得すれば、卒業後に海外に残るか、それとも日本に戻るかという2つの選択肢ができます。

 

つまり卒業後に海外を中心に働きたいのであれば、海外の大学院への留学を視野に入れなければなりません。日本で水中考古学者として活躍したいのであれば日本の考古学の学べる研究室がある大学院に進むべきです。(水中考古学は陸上の考古学の一分野に過ぎません。水中考古学と(陸上)の考古学は独立して存在しているのではなく、通常(陸上)の考古学の研究対象が水中で発見された場合に、そこに水中発掘や保存処理の技術が加わり水中考古学といわれる研究方法論になるのです。つまり日本で水中考古学研究をするには、日本の考古学に精通してなければいけません。ちなみに私は西洋造船史を専門とした歴史考古学者です。その研究対象である沈没船の多くが海底で発見されるために、水中での発掘・記録・研究方法を身に着け、水中考古学者と呼ばれるようになりました。しかしながらその基にあるのは歴史考古学なのです。)

 

 

しかしこれらは大学院の話なので、海外の大学院を目指すにしても日本の大学院で考古学を続けるにしても、大学学部生の4年間を海外の大学へ留学しなければならない、または日本で東京海洋大学や東海大学のような水中考古学の講義のある大学に行かなければならないということはありません。(極端な話ですが、それこそ東大や京大のようにネームバリューが強い大学、陸上の考古学の強い大学に行っていた方が後々役に立ちます。自分の学力にあったレベルのなかでしっかりと考古学を学べる学部がある大学を選んでください。)

 

このことは世界的に見ても同じで、大学学部生の4年間で水中考古学を高いレベルで学べる大学はありません。つまり大学の授業の一つとして水中考古学概説を学ぶことができても、卒業後にその知識のおかげで(水中)考古学の仕事に就けるという可能性は限りなくゼロに近いといえます。また水中考古学の授業がある大学を卒業したからといって、それが大学院入学の際に優位に働くということもありません。私が大学院にいたテキサス農工大学にも5個から6個もの大学学部生向けの船舶考古学関連の授業がありました。しかしこれらの授業はあくまで学部生レベルの概論で、テキサス農工大学でこれらの授業を取っていたからといって水中考古学関連の仕事につけたり、テキサス農工大の大学院や他の大学院の入試に有利に働くということはありません。大学と大学院は全く別の独立したものと考えてください。

 

つまり全世界の水中考古学者を目指す学生にとっては、大学院に入った時点で全員が研究者として同じスタートラインに立つことになります。

 

将来皆さんが職業としての水中考古学研究者になるには、まずは大学院に行くことが重要になります。なので大学生時代に水中考古学を学ぶことにそこまで囚われ過ぎず、将来行きたい大学院に入るための準備がしっかりできる大学と環境を選んで進路を決めてみてください。

 

水中考古学者になるためには? 大学生の皆様へ、

 

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