ギリシャ (2017)

フォーニ(フル二)島水中調査プロジェクト
(Fourni Underwater Survey Project)
 

プロジェクトディレクター:ヨーゴ・コウツォフラキス博士 (Dr. George Koutsouflakis), ピーター・キャンベル博士 (Dr. Peter Campbell)

場所:フォーニ(フル二)島、ギリシャ

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フォーニ島水中調査プロジェクトチームメンバー

2017年、私にとって忘れることのできない特別な水中現地調査に参加することになりました。フォーニ(フルニ)島水中調査プロジェクトです。

ギリシャ本土の東に位置するエーゲ海(トルコ本土のすぐ西側)に浮かぶこの小さな島は、古代から重要な航路の上に在りました。そしてこの島の海岸線の水中には、紀元前8世紀前から紀元12世紀頃まで約2000年間の船が、現在発見されてるだけでも53隻も沈んでいます。

このプロジェクトでの発見は2015年と2016年の水中考古学界で大きなニュースであり、私もその報道記事を読んだことが何度もありました。しかし、私の船舶考古学者としての専門は大航海時代とその前後なので、フォーニ島で発見されたような古代船に関わるプロジェクトの関係者にはあまり知り合いもいませんでした。それ故に、2015年頃にこのプロジェクトの記事を読んだ時には、よもや自分がこのプロジェクトの水中記録作業の責任者になるとは思ってもいませんでした。

今でもよく覚えているのが、2016年の秋ごろに突然にピーター・キャンベル博士から2017年のこのプロジェクトに協力してほしいと連絡があったことです。二つ返事で依頼を受けることにしました。

 

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私たちが3週間滞在した小さな町
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私たちの宿の目の前は美しいビーチでした。夜は星空がすごくきれい。

 

このプロジェクトはわたしにとってとても大きな意味のあるものでした。それは私が20代初めに水中考古学に興味を持ちはじめた大学生だったころ思い描いていたそのもの風景がそこにあったからです。

おそらく現在世界中で水中考古学または海事考古学を目指している若者達、その夢をかなえた水中考古学者たちが最初に目にしたであろう水中考古学の写真や映像は、60年代に「水中考古学の父」とよばれるジョージ・バス博士がトルコの地中海沿岸で行った水中発掘とその美しい景色だったのではないでしょうか。

その美しい景色と海、その海底に広がる神秘的な沈没船遺跡。全ての水中考古学者が憧れた風景です。しかし、それから50年が過ぎ、このような牧歌的な景色に囲まれての水中調査など現在ではすっかり過去のもので、自分が経験できるはずのないものだと思っていました。

 

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発掘現場に向かうまでの車からの風景

その憧れながらも諦めていた景色がそこにありました。フォー二島はエーゲ海東部に位置する島で、ギリシャの首都アテネからフェリーで9時間かけて向かいます。ギリシャ本土よりもトルコにずっと近い場所にあるのです。アテネに到着た翌日に発掘チームと合流、水中調査の準備や機材調達を手伝い、次の日にフォーニ島に向かいました。

フォーニ島はギリシャ人の中でも知る人ぞ知る辺境の観光地で、ギリシャ本土でも、その名前とそこが美しい島であるということは知っているが実際に行った経験のある人はいませんでした。

私もフォーニ島に到着して驚きました。21歳のころ英語も満足に読めないときに手にした英語で書かれた本に載っていた写真そのものの景色のなかに自分がいたのです。美しい静かな島と小さな港町、その家々は白塗りの壁で屋根は青色でした。町の外の道路では羊たちが歩き回り、水中作業の現場からみえるのは美しい真っ白な岩の壁と青い海、そして水平線に点在する白い岩がむきだした島々です。昔読んだ小さな本の写真の景色が自分を360度囲んでいました。

 

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アンフォラの引き上げの様子 (Photo Credit: Vasilis Mentogianis)

今回は3週間この島に滞在して水中作業を行いました。このプロジェクトの主な目的はダイバーを使った水中探査をして調査範囲を広げて新たな沈没船を発見しその場所を記録するというものでした。

プロジェクトはギリシア政府が主体となり、アメリカの私設考古学調査組織を保有する財団の出資で行なわれており、私が参加したのは2015年、2016年に続く3回目の2017年の水中調査です。プロジェクトリーダーとしてギリシャ側からコウツォフラキス博士、アメリカからキャンベル博士(ピーター)がディレクターをつとめ、この2人の指揮のもとに行われていました。

2016年までにすでに40隻以上の沈没船を発見していたこのプロジェクトは、2017年に次の段階として水中探査から水中記録作業への移行を考えており、その責任者として私に依頼が来たのです。2017年、試験的に私は3人のアメリカ人の水中考古学者を率いて、水中記録作業を行いました。実際の作業期間は20日間程で、私たちは9隻の沈没船の3D実測図を作成しました。

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ギリシャの水中考古学者達に最初の3D実測図の成果を見せている様子。パソコンの前に座っているのがギリシア人のプロジェクトディレクター、コウツォフラキス博士。

正直なところギリシア側はあまりこの新しい技術をつかった記録作業に乗り気ではなかったようです。ギリシアでもいち早く2012年ごろからフォトグラメトリーを試験的に何度も水中遺跡で記録作業に使っていたのようですが、考古学の調査データとして使えるような成果が出せていなかった多め、記録作業の手段として信頼が得られていなかったと、後にギリシアチームから聞きました。

しかし、水中記録作業開始から4~5日がたち、3D実測図(3Dモデル)が出来てくると、その出来栄えを評価し、気に入ってくれたギリシャ政府の考古学者から様々な依頼がもたらされるようになりました。その中で特に重要視されていたのが、深いところにある嵐などに浸食されていない沈没船遺跡の3D実測図の作成です。

これらの遺跡は今回の調査範囲では主に3か所あり船体長45mのものが1隻と同55mが2隻でした。これらの遺跡はダイバーが一般的な潜水機材を使い潜れる場所としては深いところにあり、体への負担も大きいので一回15分から10分程度しか潜れません。しかし、その深さゆえに自然作用にも地元の漁師にも荒らされてはおらず、船体自体はまだ海底に埋まっていますが、その積荷であるアンフォラは無傷のまま海底に沈んでいます。

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沈没船遺跡のアンフォラ (Photo Credit: Vasilis Mentogianis)

エーゲ海の海の色は船の上から見ると紫色のかかった濃く美しい青色です。透明度も30m程あり、水中でも水面から35mは光も届くため美しい青色の世界が広がります。フォーニ島の海岸線は切り立った白色の崖がそびえたっており、それが水中でも続いています。

水中の浅いところから下を見つめると崖の先に広がるのは漆黒の闇。そこに吸い込まれるように降りていくのです。水深35mを過ぎると全ての青を塗りつぶしたような濃い青色。45mあたりになると闇に目がなれ、言葉では形容のしがたい吸い込まれるような濃くそれでいて鮮やかな青の世界が広がり、自分の体がその世界の一部になったかのような錯覚に襲われるのです。

そこに突然あらわれるアンフォラの広がった海底。それだけで神秘的な風景ですが、アンフォラに付着している海綿(スポンジ)が鮮やかなオレンジや黄色、そして鮮やかな黒色をしており、殺風景な海底にカラフルな景色を作り出しているのです。

これらの沈没船遺跡は約2000年かそれ以上の間、ほぼ変わることなくそこに横たわっていたかと思うと、この世の最も美しい美術館を貸し切って鑑賞しているような気持になります。今までも様々な美しい水中遺跡を訪れてきていましたが、フォーニ島の海面下45mより深いの場所にある沈没船遺跡は別格の神秘的な美しさをもっていました。

正直なところ私はアンフォラに関しては乏しい知識しか持ち合わせていません。また水中での発掘作業を行ったわけではないので、沈没船の船体を見る機会も2017年はありませんでした。しかしながら今までで最も満足のいくプロジェクトの一つになりました。

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私が作成した3D実測図の一つ。

私たちが滞在した町もとても美しく、ギリシャ人中心で構成されるチームもとても陽気で、夕食後はお酒を嗜み、いろいろのことを話しながら毎日を過ごしました。今でも定期的に連絡をくれるメンバーも何人もいます。共同生活を送りながら共通の目的のために働き多くの時間を過ごすので、水中考古学の発掘プロジェクトに参加すると仲の良い友人が沢山出来るのです。これも考古学の楽しみの一つです。

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朝食の様子。ギリシャ人は早起きだけど朝はゆっくり。

驚いたのがギリシャはとても野菜が美味しいことです。私はあまり野菜が好きではないのですが、ギリシャは本当に野菜が美味しい。おそらくこれは野菜料理に使うオリーブオイルが美味しいからなのでしょう。その他にもフラッペ(フラペチーノではありません)とよばれる、アイスコーヒーをシェイカーで泡立てた飲み物など、美味しいものが沢山ありました。

特に発掘現場に向かうための町から離れた集落にある物語に出てくるような小さなレストラン。出てくる野菜料理や魚料理は地元の食材のみを使っており、まるで魔法のような美味しさです。

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奥の波止場から毎日水中作業に向かっていた。その手前にあるのが魔法のレストラン。
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海の目の前にたたずむ、小さな魔法のレストラン。
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全てが美味しい魔法のレストラン。一緒に昼食を食べているのが水中記録調査班のディレックとリー。

 

また今回の水中調査には、プロジェクトに出資したRPMというマルタ共和国をベースにするアメリカの私設財団から調査船も派遣されていました。恐ろしいほど高価なソナーとロボットを使った水中調査も行われ、その船に乗り込んで最新の海底探査の様子を見学することも出来ました。

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RPM財団の調査船ハーキュリー(ヘラクレス)。
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調査船ハーキュリーの内部
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ハーキュリーの甲板でピーターとマットと次のプロジェクトについていろいろ話している。

このプロジェクトでの大きな収穫がキャンベル博士(ピーター)に出会えたことです。彼は私と同い年のアメリカ人で、イーストキャロライナ大学で修士号を取得した後にイギリスのサウザンプトン大学で博士号を取得しました。サウザンプトン大学はここ20年で優秀な海事考古学者を多数輩出し、最近ではテキサス農工大学と共にこの学問を率いる有力な教育機関になりました。

私も2015年頃から彼の活躍をよく耳にするようになり、それと同時に各国の著名な海事考古学者から、「君は将来ピーターと協力して一緒に研究を行なうようになるだろう」と示唆されるようになりました。

ピーターについて、彼の人柄を悪く言う人は誰もおらず、また、考古学に対する考え方が私と似ている若い考古学者だと聞かされていました。私は彼と直接面識はなかったのですが、このように他の考古学者の名前が自分の周りに出てくるようになったので、彼について大きな興味を持つようになりました。

そんな彼から突然2016年に依頼のメールが来たので、躊躇することもなく即座に依頼を受けることにしたのです。後で知ったのですが、彼も、私と同じ時期、テキサス農工大学大学院の学生時代から各国のプロジェクトから依頼を受けてふらふら各国を飛び回っていた私の存在と研究内容は知っていたそうで、今回も何人かの学者仲間から奨められて私に依頼してくれたそうです。

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フォーニ島での水中調査が無事に終わり、アテナのホテルに帰ってきてリラックスしているピーター。本当にお疲れ様です。
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そして3週間働き通しで体力が底をついた状態の私。

 

実際にピーターにあって一緒に仕事をしてみると、彼は聡明なだけではなく、周囲の状況をよくみて常に最善の判断できる優秀なプロジェクトリーダーであり、沢山の面白いアイデアを持っている考古学者でした。

ピーターと私は約3週間ルームメイトだったのですが、すぐに意気投合して、様々な研究アイディアを出し合い議論し、プロジェクトが終わるころにはとても仲の良い友人であり同僚になっていました。

今でも2か月に一回程度、スカイプでお互いの近況と研究の進捗、またお互いのアイディアについて討論しあう研究仲間になっています。ピーターは私が水中考古学を続けていく限り、常に信頼し協力し合える学者仲間であり続ける存在だと思います。

私には、カストロ教授(フィリップ)をはじめとして貴重な同僚でもあり友人でもある学者仲間が何人かいます。しかしながらこれらの友人は年上が多く、自分と同い年にピーターのような存在がいるのはとても嬉しいことなのです。このプロジェクトは彼と一緒に働き始める契機になりました。

 

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アクロポリスのパルテノン神殿にて。アテナに帰ってきてからはしっかり観光もしました。
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アテナに帰ってきてからも何回もチームメンバーで集まって食事をしていました。

もちろん水中調査後はアテネのアクロポリスなどを観光してました。今回のプロジェクトのチームメンバーで仲良くなったギリシャ人考古学者が、一般の観光客が注目しない場所やレストランに案内してくれたので、とても楽しい時間を過ごすことが出来ました。

すでに次回の水中調査の参加依頼をいただいているので、今からまたギリシャに帰るのが楽しみでしかたありません。

 

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水中記録作業班。船のエンジンが壊れて、助けが来る間に船が岩礁に当たらないように交代で船を人力で引っ張っているところ。小さなトラブルもいい思い出になるのです。

 

 

 

次の発掘プロジェクト

グアム大学海事考古学特別授業:シー・ビー水中遺跡記録調査(グアム:2017年)

 

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