イェニカピ沈没船(第24号)木材3D記録プロジェクト
プロジェクトリーダー:マイケル・ジョーンズ博士
場所:イスタンブール

2019年は2回トルコで働かせていただきました。1回目は3月にイスタンブールとボドルムで、そして2回目は12月にイスタンブールででした。

依頼主はイスタンブールにあるコチ大学。コチ大学はトルコのコチ一家(財団)が運営する私立大学。イスタンブール郊外の山の中にあるキャンパスはこれでもかというほどに豪華です。全ての建物にお洒落なカフェが併設されており、外観もアメリカのセレブの保養施設みたいです。そして学食が安くてうまい。
なぜトルコの大学から私のところに依頼が来るかというとコチ大学で船舶考古学を教えている教授が私のテキサス農工大学大学院の先輩だからです。この先輩の名前がマイケル・ジョーンズ。そうジョーンズ博士なのです(インディ・ジョーンズと一緒)。なんか羨ましい。

マイクは私と年齢は近いのですが、彼は私が大学院に入る前に必要な授業をすべて取り終え、私がテキサスにいたころ彼はほとんどの時間を博士論文の研究のためトルコで過ごしていたので、私がアメリカにいたときはほとんど面識はありませんでした。でも同じ大学院の卒業生ということで学会などで話しているうちに仲良くなり、彼の大学の生徒たちに技術指導してほしいと頼まれ、このように私もトルコで働らけることになりました。マイクの研究内容はビザンティン帝国の造船史。東ローマ帝国とも呼ばれたビザンティン帝国の船は「古代船」と「現代船」の移り変わりが行われた時期。とても面白い時代で、私もこの仕事を通じてビザンティン帝国の造船史についていろいろなことを勉強できています。
トルコでの依頼内容は彼の大学院の生徒への3次元測量の技術指導と、イスタンブールのイェニカピ沈没船群で発掘された船体木材の記録作業の2つでした。
イェニカピ沈没船群とはトルコのイスタンブール南部のイェニカピで地下鉄の駅の建設工事中に見つかった32隻の沈没船遺跡。このイェニカピは現在は陸地となってますがイスタンブールがコンスタンティノープルと呼ばれていた中世トルコでは港として使われていた場所でした。イェニカピ沈没船群についての詳細は下のリンクをご覧ください。
中世地中海の船、東ローマ帝国イェニカピ港の沈没船遺跡群(西暦900年頃~西暦950年頃)

そして保存処理を終えたいくつかのイェニカピ沈没船の木材が保管されているのがトルコ西部の港町「ボドルム」。このボドルムにはINA(Institute of Nautical Archaeology)という学術調査機関の研究所があります。INAはテキサス農工大学大学院の船舶考古学学科に併設されている研究機関です。もともと1960年代にボドルムを本部として作られたこの研究機関をアメリカのテキサス農工大学が招待する形でテキサス農工大学に船舶考古学プログラムが開設されました。
船舶考古学が誕生した60年代と70年代は、この研究所が中心となりトルコ沖の沈没船発掘が行われ、船舶考古学会で有名なケープゲリドニア沈没船、ウルブルン沈没船、ヤシアダ沈没船、サーチェリマーニ沈没船をはじめ、この学問の創成期を支えた多くの研究がこの研究所を中心に行われたのです。

私にとっては英語がわからなかった日本での大学生時代に水中考古学に憧れ、多くの英語の本を取り寄せ、その写真を眺めていました。その時に沢山あったのがこの研究所の写真。そしてそれから13年後、念願がかないついに2019年にこのボドルムの研究所で働く機会をいただけました。
ちなみにマイクは研究のために、年に何度もボドルムを訪れており、さらに私もテキサス農工大学大学院の卒業生なので、許可を取り自由に研究所の施設を使うことが出来ます。私はあまり自分の出身大学の名前を気にしないタイプなのですが、この時ばかりは感謝。充実した時間を過ごせました。

この3月に訪れたときはイスタンブールのコチ大学で1週間教え、その後ボドルムで1週間働きました。12月は10日間イスタンブールで大学院生たちに集中講義を行いました。

最近いろんな国の大学や大学院で講師をしていてよく感じるのが、生徒たちがやたら可愛い。いい方は悪いですが「ご飯をねだる子犬たちに囲まれている」感じです。彼らは貪欲に知識を求め、よく質問をし、そして慕ってくれます。犬派の私としてはたまらん。教員冥利に尽きます。
12月はコチ大学と、ANAMEDというコチ大学を中心にした研究機関、そしてマイクと共同研究しているMimar Sinan Güzel Sanatlar Üniversitesiという発音の仕方さえわからないイスタンブールの公立大学で教えさせていただきました。
そしてトルコは美しい。東西の文化が入り混じり雑多としているところが大好きです。料理も美味!

2020年の依頼も既にいただきました(毎年の特別講師)。今から帰るのが楽しみです。そのうちトルコの海での水中発掘もしてみたい。




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