バルカン・ヘリタージ・フィールドスクール2018 (Balkan Heritage Underwater Archaeology in Black Sea 2018)
プロジェクトリーダー:ナイデン・プラホブ (Nayden Prahov)
場所:ネセバル、ブルガリア
2018年6月に1週間、ブルガリアで開催された水中考古学フィールドスクールの講師をしました。このフィールドスクールはブルガリア政府の水中考古学を取り仕切るバルカン・ヘリテージという研究組織を母体に、アメリカなど英語圏の大学生を対象にして行われました。
フィールドスクールは4週間行われたのですが、私はそのうちの1週間の講師を受け持ち、水中3次元測量を教えました。開催場所はブルガリア東部の黒海に面する世界遺産の町ネセバルです。ネセバルは黒海の入り口に近い重要な貿易の中継地点として古代ギリシャの時代から栄えた町で、その後もローマ帝国、ビザンティン帝国、オスマントルコ帝国とその統治者は変わりましたが、変わらずその場所で古代から現代に至るまで栄え続けた、歴史のある海に囲まれた美しい町です。
生徒数は少なく4人(それと講師側のはずのブルガリア人の考古学者3人を合わせて7人)でした。彼らはアメリカの大学に通っている大学生たちで年齢は19歳から24歳。水中考古学に興味を持ち、それを実際に体験するためにこのフィールドスクールにやってきました。
彼らにとってはすべての経験が初めて。水中考古学のイロハを学ぶ彼らの目はとてもキラキラ輝いていて、私も水中考古学を学び始めたころの初心を思い出させられながら教えていました。
水中での3次元測量といっても、その基本はまず陸上で学ばなければいけません。生徒たちには最初の数日間に朝から晩まで時間を目一杯使い、フォトグラメトリーの基礎を叩き込みました。
陸上である程度の基礎が出来るようになったらいよいよ水中での作業。今回のフィールドスクールでは古代ギリシャ時代の町を囲んでいた城壁の一部が水没しており、その実物の水中遺跡を使い練習を行います。
私自身も彼らと潜って直接指導。黒海はエーゲ海と違い透明度も悪く、みんな苦労していました。私も黒海で潜ったのはこれが初めてだったのですが、海水が他の海に比べてしょっぱくないのは奇妙な感覚でした。生徒たちのダイビングの技術もバラバラでしたが、全員が丁寧にしっかり仕事してくれ、一週間終わるころにはしっかりと最初から最後まで3次元測量の3Dモデルを作成とそこからの考古学データを取り出す作業ができるまでになりました。
たった一週間ととても短い間でしたが、私自身も水中考古学者を目指す若者達ととても充実した時間を過ごすことが出来ました。これから10年後、彼らがいつか大学院を卒業したのちに世界のどこかで同僚として一緒に働ける日が来ることを楽しみに待っています。
そして今回私に特別講師の仕事を依頼してくれたブルガリア人水中考古学者のナイデンとその奥さんでみんなの世話役としてチームに同行してくれていたナディンには本当にお世話になりました。滞在期間は10日ほどでしたが、ブルガリアは大好きな国のひとつになりました。
私がいつも思うのは、他人に水中考古学を教えているつもりで、実は自分が一番いろんなことを彼らから学ばせてもらっているということです。今回のブルガリアでのフィールドスクールでも生徒達から水中考古学に対する純粋な好奇心の大事さを再認識することができました。