サイパン (2017)

オペレーション・フォーレジャー (Operation Forager)

(サイパン島第二次大戦水中遺跡保護プログラム)

プロジェクトディレクター: ジェニファー・マッキネン博士 (Dr. Jennifer McKinnon, East Carolina University)、トニー・キャロル博士 (Dr. Toni Carrell, Ships of Discovery)

サイパン 水中考古学 1
2017年の現地調査チーム。

2017年3月、7年ぶりにサイパンに帰ってきました。7年前は生徒として参加した私も今回は海事考古学博士としてプロジェクトに参加するまでに成長することが出来ました。

前回のサイパンでもプロジェクトディレクターだったマッキネン博士は今回もプロジェクトを率いており、その彼女からの依頼をうけて私も参加することになりました。

7年前はマッキネン博士はオーストラリアのフリンダース大学の教授をしていたのですが、現在ではアメリカのイースト・キャロライナ大学の教授に職場をかえていました。

じつは7年前のプロジェクトの時からマッキネン博士とその夫君で同じく海事考古学者のラウプ博士とはたいへん親しくさせてもらい、イースト・キャロライナ大学の彼らの受け持つ授業に、特別講師として私を招聘したりしてくれていました。

マッキネン博士は教授(教育者)としての評価も高い世界最高峰の水中考古学者でもあるのですが、プロジェクトディレクターとしての手腕も素晴らしく、これまでに様々な水中調査発掘を成功させてきました。そんな彼女にアメリカ政府直属の国立公園などを管理する研究機関 (National Park Service) から直々に依頼があり、今回のプロジェクトが発足しました。

このプロジェクトの目的は、サイパン島にある第二次世界大戦に関する水中遺跡の長期的な保護と保存です。実はここ数年、戦争遺跡の保護と保存が太平洋の国々の水中考古学においてこれまでにないほど注目されています。

近年、東南アジア諸国やオセアニア諸国も水中考古学に力を入れはじめ、様々な研究を独自に行っているのですが、これらの中には日本やアメリカなどの国に比べるとあまり考古学にお金をかける余裕がない国があるのも事実なのです。

そうした地域では、水中考古学と地元の観光業が密接に関係しながら地域密着型の研究が行われています。つまり研究内容をいかした博物館展示づくりや水中遺跡へのダイビングツアーなどを通して、水中文化遺産に新たな価値を与えていくのです。そうした中で第二次世界大戦の水中文化遺産については「参戦していたアメリカや日本から多くの観光客を呼ぶことが出来る観光資源」という側面をも重視しながら研究していくのです。

このような近年の太平洋地域の水中考古学の流れをくみ、遺跡保護の方法と理論を確立するためにマッキネン博士を中心に特別チームが編成されました。

プロジェクトの目的は大戦の水中遺跡を今後何百年も保護・保存していくための方法論の確立し、その方法論を活用して今後の戦争遺跡保護の為のケーススタディ(事例)を構築することです。

プロジェクトのウェブサイトはこちらになります。
オペレーション・フォーレジャー(英語)

サイパン 水中考古学 2
サイパンの海はライトブルーの色彩がとにかく美しい。
サイパン 水中考古学 3
作業前。2017年はじめの現地調査だったので日焼けで皮がむけてきてます。

その為に3人の学者が海外から呼ばれました。

はじめの2人はオーストラリアの保存処理の専門家、ビッキー・リチャーズ (Vicki Richards) とジョン・カーペンター (John Carpenter)です。2人はオーストラリアを代表する水中文化遺産保存の専門家で、陸上に引き上げられた遺物だけではなく、「文化遺産の保存処理は水中から始まっている」をモットーに、世界中の海で水中文化遺産の保存処理を行っています。

彼らが調査手法は次のようなものです。

先ず、遺跡の各所に小さな穴をあけて腐食の進んでいない穴の奥に検査計の先をいれ、検知された化学物質の濃度によって腐食の種類と進行具合、さらには遺跡があとどのくらいその環境で存在できるかを測定するのです。それと同時にその海の酸素濃度や塩分濃度などを調べ、それらの状況から水中での遺跡の最適な保存方法を検討します。

そして3人目が私です。私の仕事は5年ごとに遺跡の精密な3Dモデルを作成し(2017年が一年目。2022年にまたサイパンに戻る予定です。)そのモデルを偏差検査にかけます。要は2つの3Dモデルの違い(同じ遺跡ですが、別々の年に作成された遺跡)を専門のソフトウェアで検出し、遺跡の状態がどのように変わっていってるか数値として示し出すのです。それによって遺跡のどこの部分がどのように腐食しているかを認識します。

この2種類の調査を5年ごとに繰り返すことによって、サイパンの水中文化遺産にとっての最適な現地保存の方法を導き出すのがこのプロジェクトの目的なのです。

また、この3人以外にも、作業の補助にアメリカの水中考古学者たちと、これらの作業がどのように行われているかを学ぶためにマッキネン博士の学生も数名参加していました。

サイパン 水中考古学 5
私の水中作業の様子。基本的にいつも一人ぼっちです。ダイブバディはいつも少し離れたところから見守ってくれています。

この現地調査では保存処理班と3D実測図班に分かれて2週間水中で作業を行い、私は9つの水中遺跡の3D実測図を作成しました。またこの作成した3Dモデルを遺跡の現地保存に役立てるためのデータだけにしておくのは勿体ないということで、スケッチファブ (Sketchfab) という3Dモデルを共有できるウェブサイトにマッキネン博士のアカウントをつくり、今回のプロジェクトで作成した3Dモデルをアップロードしました。

以下が私の作成した3D実測図の一部です。

他にもいくつもあるので、よかったら見て下さい。

リンクはこちらです。
スケッチファブ:サイパン水中文化遺産3Dモデル。

今回のサイパンでのプロジェクトはとても豪華なものでした。ホテルに泊まり毎晩レストランで食事をしていました。これは水中考古学のプロジェクトではとても珍しいことなのです。多くのプロジェクトではチームでアパートを借りてそこで自炊をしながら生活します。毎晩外食できるとは贅沢すぎます。そしてさらに嬉しいことにこの外食では一人20ドルまでなら何を頼んでもいいのです。

このあたりがさすが海事考古学大国のアメリカ政府関連のプロジェクトなだけのことはありました。もちろん報酬も他のプロジェクトよりも高めでした。

仕事の受託料金は作業内容によって異なるのですが、やはりアメリカや日本からの依頼に対しては高めに設定しています。一方でその国の平均月給が6~7万円という地域からも数多くの依頼を受けて仕事をしています。この場合、私にとって格安の依頼料で働いているとしても、現地スタッフの月収の何倍も受け取っていることになるのです。

私にとって、現在は海事考学者として経験を積むための期間だと考えています。その為にも、これらの国ではほぼボランティアのような報酬しか貰えなかったとしても極力依頼に応じるようにしています。その国の水中考古学の発展に貢献できるように真剣に働き、研究者としての経験を積み成長するチャンスとしてこれを活かすよう心掛けています。

とはいえ、たまには今回のこのプロジェクトのように、バカンスのような豪華な現地調査もいいものです。観光地サイパンでの現地調査、最高でした。

 

サイパン 水中考古学
サイパン名物、サイパンダ。

 

 

 

次の発掘プロジェクト

マルドナルド湾沈没船調査プロジェクト(ウルグアイ:2017年)

 

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