今回は水中考古学者がどのように水中で海底を掘っているかを紹介したいと思います。
私たちが水中を海底を掘るにはエンジンポンプを使います。エンジンポンプとは水をくみ上げる機械で、下の写真の中ではエンジンによって黄色いホースから汲み上げられた水が青いホース内に送り込まれます。
青いホース内 (画像の左側) を流れる水は水中にあるパイプから噴射される (画像の右側) のですが、そのパイプの付け根には蛇腹のホースがパイプと平行に取り付けられています。この蛇腹ホースにはパイプ内を走る水の流れのおかげで吸引力が発生し、蛇腹ホース内に吸い込まれた土砂はパイプの先から排出されるのです。
ようは簡易の水中掃除機のような器具で土砂を吸い上げて、その土砂を調査の邪魔にならない場所に排出します。
一見簡単そうに見えますが、この器具を使用する上で大事な点が2つあります。
一つ目は直接土砂を吸い込まないこと。私たちが行なっているのは学術調査なので、発見された遺物の位置などを詳細に記録しなければなりません。もし何も考えずに蛇腹ホースの先を直接海底に当てて土砂を吸い込んだら、そこに埋もれていた遺物まで一緒に吸い込んでしまいます。
そうならないように水中考古学者は片手で蛇腹ホースの先を海底から少し浮かした場所で持ち、反対の手で土砂を丁寧にすくうように(土砂をはたいて巻き上がった砂だけを吸い込むように) 蛇腹ホースで吸い込みます。この作業の最中は顔を蛇腹ホースの先に近づけ、出土した遺物や間違って遺物が吸い込まれたれしないかなどを注意深く観察しながら掘り進めるのです。
もう一つ重要なのが自分の体を絶対に沈没船 (海底) に触れないようにするということです。
水中で何百年、何千年と沈んでいた木造の船体はスポンジのように脆くなっています。そのためもし (考古学者) ダイバーの体や足、または足ひれ (フィン) などが沈没船に触れたらその船体構造は豆腐のように崩れてしまうのです。
そのため発掘中の水中考古学者は上の写真のように、水中で海底ギリギリを浮くように浮力を調節しながらの発掘を行います。ここで大事なのが足ひれ (フィン) で浮力の調整を行わないということです。水を蹴って水中を上下に移動すると海底の土砂が蹴り上げられ、透明度が落ち作業の効率が悪くなってしまいます。また時には蹴られた水の勢いだけで船体の木が崩れてしまうこともあるのです。
つまり水中考古学では水中作業の最中の浮力のコントロールは足ひれやジャケット内の空気量によって行うのではなく、自身の肺の中の空気量のみで浮力の調整をして、海底ギリギリを浮くように姿勢をとりながら発掘作業をしなければなりません。
実は肺による完全な浮力のコントロールはなかなか難しく、ダイビング素人の考古学者でしたら、最低50回ぐらいの経験は必要であると考えています。100回ぐらいのダイビングの経験を積むと、浮力とかのことを頭で考えず (自転車をあまり何も考えずに乗れるように) 自身の姿勢などを意識せずとも自然にそのような姿勢で発掘ができるようになっています。
もちろんこの方法が水中発掘における海底の掘り方の全てではないのですが、現在世界中で行われている水中発掘の95%以上でこのエンジンポンプを使った発掘が採用されています。(ちなみに海外ではウォーター・ドレッジと呼ばれています。)
私の水中作業の殆どが沈没船の精密3Dモデルを作り、そこから様々なデータを引き出すというものなのですが、時間があって3Dモデル作成用データの収集を行わなくていい場合は私も一日中このような器具を使って沈没船の水中発掘を行なっています。
私は今日も2時間ほど取り憑かれたように水中で邪魔な土砂を沈没船から取り除くように掘っていました。時間を忘れてしまい夢中になってしまう中毒性のある作業なのです。
<発掘プロジェクト>
<船の考古学>
<おまけ>